高石さんはピッタリ

――小泉八雲を長年朗読されてきた佐野さんから見て、『ばけばけ』という作品の印象はいかがですか?

僕は研究家ではないけれど、それなりに小泉八雲に関する書籍を読んできているので、大体の流れは把握しているつもりです。それでも、知らないような深いところを掘り下げていて、すごくしっかりして筋が通っている。もちろんフィクションだから事実と違ったりデフォルメしたりしている部分もありますが、本質から逸脱することはありません。ある程度、ヘルンとセツのことを知っている人でも、このドラマを見たら、「そこまでやるんだ!」という感じは、お受けになるのではと思います。

実際のセツさんがどんな方だったのかはセツさんが記した『思ひ出の記』などから想像するしかないのですが、怪談や本を読むのが好きな、いわゆる「怪談オタク女子」的な感じがしています。もしご存命であったら、きっと仲良くなれるんじゃないかな(笑)。そんなセツをモデルにした松野トキに、高石さんのあの大らかな感じがこのドラマにおいてピッタリだなと感じています。

(『ばけばけ』/(c)NHK)

ヘブンを演じるトミーさんは、よく研究なさっているなと思います。実際のヘルンさんを見たことがあるわけではありませんが、たたずまいはもちろん、その気性といいますか、決して優しいだけの男ではない強面(こわもて)なところも表現されていて、流石にロックバンドFranKoを率いているだけのことはあるなあと敬服しています。

西田千太郎がモデルの錦織を演じる吉沢亮さんは、芝居を交わすたびに、その正直で真っすぐな姿勢に惹(ひ)き込まれてしまいます。錦織が抱える後ろめたさや引き裂かれるような思いは、実は影の主役というか、近現代の日本が抱えてきた歴史の闇を代弁しているようにも感じています。