バラ色の夢多き少女時代を過ぎて
19世紀後半のアメリカを舞台にしたルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』は、出版から150年ほど経た現在も、世界中で読み継がれている。何度もテレビドラマや舞台、そして、映画になってきた。多くの人が知るこの物語を、『レディ・バード』(2017年)のグレタ・ガーウィグ監督が敬意と愛情をこめ、熟慮して脚色。新たな命を吹き込んだ。
ニューヨークで家庭教師をしながら作家として歩みだしているマーチ家の次女ジョー(シアーシャ・ローナン)。物語は彼女と編集者との出版社での交渉から始まり、ジョーを核にして、二つの時代が行き来する。女優になりたかった長女メグ(エマ・ワトソン)は今や結婚して母となった。実家に残った三女ベス(エリザ・スカンレン)は音楽の才能に恵まれながらも、猩紅熱(しょうこう)で体調を崩している。伯母に伴われパリにいる末っ子エイミー(フローレンス・ピュー)は絵の勉強中だ。バラ色の少女時代を過ぎた四姉妹が現実に向き合う現在と、夢多く、賑やかで大胆不敵だった日々が自然なバランスで描き出されてゆく。
パーティーでローリー(ティモシー・シャラメ)と出会い、二人でダンスに興じるジョー。クリスマスの朝、母と一緒に奉仕活動をする四姉妹。屋根裏部屋で、ジョーが創作した寸劇をローリーを交えて演じる様子など、小説やドラマでよく知られている少女時代の姉妹の輝きがまばゆい。
時を経て、今や彼女たちは大人になり、それぞれに人生の厳しさに直面している。なかでも、ジョーとエイミーの考え方は対照的だが、財産が女性に何をもたらすかを理解し、生き方を模索する姿が力強い。自立と自由を求めるジョーはもちろんだが、ガーウィグが描くエイミーは今までになく現代的で新鮮だ。
ローナン演じるジョーには透明感があり、理想とする自分に到達できないもどかしさが伝わってくる。結婚や相続ではない経済的な自立を願う一方で、それがゆえに孤独と向き合って心が揺れる。凜とした姿に垣間見えるそんな弱さは共感を誘うはずだ。
一方、エイミーは原作では女の子っぽい華奢な印象があるのに対して、ハスキーな声、丸みのある体つきのピューはそのイメージを軽やかに覆す。画家として生計を立てられるだけの技量も、相続できる財産もない以上、結婚により経済的に自立する道を探るしかない、と現実的に考える。そんな意志の強さと世慣れた賢さを備えた彼女と、青年となったローリーがパリで再会する。
自由を求め、自立を目指し、個性を大切にする姉妹の物語は、時を経ても色あせることはない。そして、経済的な自立なくして、自由は得られないことも教えてくれる。
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わたしの若草物語
監督・脚本/グレタ・ガーウィグ
原作/ルイーザ・メイ・オルコット
出演/シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、
エリザ・スカンレン、ティモシー・シャラメ、ローラ・ダーン、メリル・ストリープほか
上映時間/2時間15分 アメリカ映画
■近日全国公開予定
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「特別養子縁組」をテーマに
実の子を持つことができなかった夫婦と、実の子を育てられなかった14歳の少女。
「特別養子縁組」をテーマにした辻村深月の同名小説を、河瀨直美監督が脚本・撮影を手掛けて映画化。夫婦、少女の事情や心情を丁寧に描きこむ。
“母”としての愛や揺らぐ心、少女に寄せる想いなど、自然な母性を漂わせる永作博美が印象深い。
近日公開予定
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出演:永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子ほか
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大人になり切れない3人の男女
仕事があり、長年一緒に暮らすパートナーもいるアラフォーのアニー(R・バーン)。彼女に届いた一通のメールから、惰性で続けていた日常が変わり始める。
ニック・ホーンビィの原作をもとに、大人になり切れない3人の男女を軽妙に描く。人生を変えようとする彼らの勇気が爽やかだ。
6月12日より新宿ピカデリーほかにて全国公開予定
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出演:ローズ・バーン、イーサン・ホークほか
※上演期間は変更の可能性があります。最新の情報は、各問い合わせ先にご確認ください