7000人の子どもを救った自称「医師」のトンデモ博覧会
実際に、このタイトル通りのトンデモ展示を開催した男がいたという事実に、ただ驚愕、困惑。なぜ、どうして? という怖いものみたさでページを捲っているうち、止められなくなってしまった。
本書は、20世紀初頭の米国、万国博覧会等で保育器に入った未熟児たちを展示した、自称「医師」の興行師、マーティン・A・クーニーの数奇な人生を綴ったノンフィクション。
プロイセン出身のクーニーは、ロンドンでの展示の大成功に味をしめ、ヨーロッパの有名な医師に師事した、という眉唾ものの触れ込みで、米国での展示に乗り出す。当時の万博には、フリーク、“未開人”、ストリッパー等の見世物小屋的ショーもあり、そのひとつとして「未熟児の展示」は大盛況だったという。
ヨーロッパではすでに一般的だった保育器だが、当時の米国ではあまり普及していなかった。大恐慌時代、「優生思想」(優秀な遺伝子は保護し、弱者や劣った遺伝子は排除する考え)が当然のように浸透していた米国では、未熟児は劣った遺伝子と見なされ、医師から見捨てられていたのだ。だから、未熟児の親たちは、生まれたばかりのわが子を抱えて、保育器に入れてもらおうと展示場に駆け込んだという。その後、未熟児を預かり、助ける場としてクーニーの展示は長く開催され続けた。
7000人もの未熟児を救ったとされる謎の興行師は、その功績を認められることなく、歴史の闇に消えていった。今、本書で明らかになるクーニーの人生、その人となりは、確かに胡散臭いけれど、人間味に溢れている。そしてクーニーこそが、米国の新生児医療の黎明期を支えた重要人物であることがわかってくる怪(快)作なのだ。
『未熟児を陳列した男 新生児医療の奇妙なはじまり』
著◎ドーン・ラッフェル
訳◎林 啓恵
原書房 2400円
著◎ドーン・ラッフェル
訳◎林 啓恵
原書房 2400円