犯行グループは人の出入りを見張っていたのか、妹が現れてからは連絡がぱたりと途絶えた。父親は指定された喫茶店で3時間待ちぼうけを食わされたという。最初の電話があってから2度目の現金受け取りまで、わずか1時間の早業だった。鮮やかな手口だが、自分の親がなぜ……とタカシさんは首をひねる。

「両親は新聞も読んでいて、ニュースだってよく見ていたんですよ。なのに、こんな典型的なオレオレ詐欺にすっかりひっかかってしまった。700万もの大金を家に置いていたのも、僕たちきょうだいには驚きでした」

タカシさんがこの話題を出すと、父親は「お前がふだんから頼りないからだ!」と逆ギレし、母親は力なくうなだれる。以来、家族の間では触れてはいけない話になってしまったという。

実家の電話番号はすぐに変更し、着信と同時に録音を知らせるアナウンスが流れるように設定した。また土地の権利書や実印を貸金庫に預け、カギはタカシさんが保管することに。さまざまな策を講じても、「また何か起こるんじゃないか」というタカシさんの不安は消えない。

 

「一刻も早く投資したい」と言い張る母

このように高齢者を焦らせて判断力を奪うのは、詐欺の常套手段だ。神奈川県に住むクミコさん(70歳)の話も、このパターンに近い。

昨年の春ごろ、鎌倉市の高齢者向け高級マンションに住む92歳の母が、慌てた様子で電話をしてきた。

「ここの管理費が6万円も値上がりするんだって。今月中に投資を始めれば利息で帳消しになるって聞いたから、銀行に連れていってくれない?」

母は4年前、入居金約3000万円を支払い、このマンションを購入した。月々の管理費と食費は、夫の遺産と自分の年金で賄える。問題なく終生入居できるはずだった。

しかし、運営会社より「来月から管理費が月9万円から15万円に上がる」と通達があり、急に不安が募ったようだ。同じ階の女性に相談したところ、「空き部屋に投資をしたら? 私も始めたわよ」と誘われた。

運営会社からは、「確実に利益を生む投資」「今月中に契約すれば利率1.2パーセントだが、来月からは半分になってしまう」と説明を受けたという。