「でも、その時点で、月末まで5日しかなかったんです。母が『一刻も早く投資したい』と言い張るので、おかしいな、と思いました。彼女の希望通り管理費を利益で回収するためには、1500万も必要でしたし」

母の焦りようを心配したクミコさんは、司法書士をしている弟に連絡し、施設のことを調べてほしいと頼んだ。弟からは、施設の運営会社や投資窓口の銀行もしっかりしており、問題はなさそうだと報告を受けた。

「ただ、預けるのは500万円くらいにしたほうがいいと思うけどな、とは話していました。弟も何か感じるものがあったのかもしれません」

母は高齢とはいえ頭もしっかりしており、身の回りのことは自分でできる。しかし投資の話だけは「一刻も早く!」「1500万円でないと!」と、聞く耳を持ってくれない。せめて書類や身分証明書の用意は自分を通すようにと言い聞かせたが、「母から連絡がきて、『運営会社と銀行の人が、身分証明がなくても大丈夫と言ってくれた。振り込めたから』と。えっ、そんな大金を簡単に振り込めるの? と不審に思いました」。

後日、契約書類を見ると、元本保証はなく、運営会社がいつでも利率を変更できる。さらに、資金の運用状況は本人にも子どもにも知らされないという。

「運営会社は、『貯金が目減りしてしまう』という母の不安につけこんで投資をさせた。私から見ると投資なんて名ばかりで、実態は『寄付』みたいなもの。母は『これで安心だわ』とホッとしていますが、限りなくグレーなやり口で、納得いきません」

ブラックボックスの中で成立した契約。母が亡くなったあと、出資金は本当に戻ってくるだろうかと、クミコさんは不安な思いを抱えている。

〈後編「信頼した男は「ダマしの天才」」につづく〉