「いつまで経っても様子がわからないので、資金繰りがどうなったか確かめようと思いましたが、相田は『任せてくれ」と言うばかり。私も強く出られず、いつしか総額で4000万円も渡してしまったのです。夫の保険金はほぼなくなりました」

相田は開拓と称して大阪や東京に頻繁に出張していた。「大手企業の契約が取れそうだ」というのが常套句。「契約してくるから」とキヨミさんに知らせては、「先方の都合でダメになった」ということを繰り返し、経費だけがかさんでいく。

その後、知り合いから「相田が駅前の消費者金融に入っていった。金に困っているのではないか」と目撃情報が寄せられてキヨミさんが調べると、相田による横領が発覚した。出張費はただの飲み食いに消え、営業先への投資は自らの小遣い。何もかもが嘘だったのだ。キヨミさんが勇気を振り絞って、「出資金を全額返し、事務所を辞めてもらいたい」と通告すると、相田はあっさり返金の約束と退職に応じたという。

だが、キヨミさんの苦闘は、ここからが本番だった。相田は「いつか返します」と言ったかと思えば、風向きが悪くなると「知らねえ!」と凄む。キヨミさんが裁判所に調停を申し立て、毎月の返還額が決まっても、数回支払った程度でなしのつぶて。3年後の民事訴訟ではあらためて罪を認めたものの、申し訳程度に返済しては逃げる、の繰り返しだった。

子どもたちや親戚からは「何で4000万円も渡したんだ」となじられ、キヨミさんは追い詰められていく。一時は、毎月1キロずつ体重が落ちていったそうだ。さらに子宮筋腫を患い、円形脱毛症になった。

「これまでに戻ってきたのは100万円程度。請求書を送り続けているのですが、無視されています。弁護士費用のことを考えると、これ以上裁判を起こす気力はありません……」

相田は今も堂々と、キヨミさんと同じ県内で暮らしている。後でわかったことだが、相田は大小さまざまな詐欺行為を働いていた“ダマしの天才”だった。主な手口は「儲け話がある」ともちかけて出資金を預かり、持ち逃げするというものだ。

キヨミさんの友人であるケンジさんも被害に遭っていた。動物愛護団体の立ち上げ資金を巻き上げられたという。被害額を合計すると、優に億を超える。被害者の一人が探偵事務所に調査させると、ダマし取られた金を愛人へのプレゼントや旅行に費やしていたことが判明。被害者たちは警察に被害届を出したものの捜査はされず、相田は一度も逮捕されずに現在に至る。

「あのまま、私が会社を畳んでいれば、夫のお金を子どもに残すことができたのに……。息子は家に寄りつきませんが、就職した娘は家に戻ってきてくれて。最近は娘と笑い合える時間ができたことが救いです」