受話器を置いたらすぐ電話が鳴る

犯人グループの演技力と連携プレーに翻弄されたのが、兵庫県に住むサキコさん(88歳)のケースだ。

サキコさんは夫を亡くしたあと娘一家と同居しているが、昨夏のその日は家にひとり。そこに家電量販店から「あなたが購入したパソコンの代金が引き落とせません」と電話がかかってきた。パソコンを買った覚えもなければ、使われたというクレジットカードにも覚えがない。すると相手は「偽造カードかもしれない。調べてみます」と言い、サキコさんの口座がある銀行名を聞いて電話を切った。

その後、1時間足らずの間に次々と電話が入る。所轄署の刑事と名乗る男は「中国人グループによる偽造カードの被害を捜査していますので、ご協力をお願いします」。銀行からは「預金は無事ですが、この口座を引き落とし先に設定した、偽のクレジットカードが何枚か作られているようです」。日本銀行協会の者だという男は「銀行から個人情報が漏れたようです。警察と調査します」。サキコさんは電話口で何度も頭を下げた。

「受話器を置いたらすぐ電話が鳴るんですわ。こっちは被害がなかったことにホッとして、協力でも何でもします、と言い続けました」

最後の電話から30分後、「銀行協会のミヤタ」と名乗るマスクをした男が訪れた。首からは行員証のようなものをぶら下げ、スーツの襟元には社章らしきバッジ。きちんとした見た目と口調に、サキコさんは本物と信じてしまった。

男はキャッシュカードを新しいものに替えるよう勧め、言われるままにサキコさんは今のカードを手渡した。さらに「新しい暗証番号を今すぐ考えるのは大変でしょうから、当面今のものを逆さまにするのはどうですか?」と提案され、「ほんなら、0091で……」と伝えてしまう。そんなやり取りを玄関先でしていると、ちょうど娘婿が帰宅した。ミヤタは「銀行が閉まる前に手続きをしますね」と慌てたように暇を告げた。

その姿を不審に思った娘婿が警察と銀行にすぐ連絡したものの、キャッシュカードの利用停止まで20分かかったため、お金は引き出されてしまう。のちの捜査で、男がサキコさん宅を出たわずか2分後に、隣のコンビニのATMから50万円が引き出されたことが判明。ただ幸運なことに、3ヵ月後、銀行の勧めで申請した「振り込め詐欺救済法」が適用されたため、約26万円は戻ってきた。

「詐欺に遭ったことを友だちに話して回ってます。なくなったお金のことは考えても仕方ないから、ほかの人が引っかからんようにせんとね」

孫が「3万円で命を取られる人もいるんやから、ケガもなくて助かったと考えようや」と慰めてくれるなど、家族が気遣ってくれたのがサキコさんには嬉しかったという。

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被害に遭った人たちに話を聞いてみると、日ごろは判断力も思考もきちんとしている。しかし相手はプロ中のプロ。その巧みな話術に騙されない人はいない。「自分だけは大丈夫」と思い込まず、警戒しすぎるくらいでちょうどいい。