専門家が独自の目線で選ぶ「時代を表すキーワード」。今回は、政治アナリストの伊藤惇夫さんが、「予備費」について解説します。

額が決まれば、あとは政府が自由に使えるお金に化ける?

コロナ禍収束がまだまだ見通せないなか、通常国会は会期延長なしで、さっさと閉会した。「何かあった時に、大丈夫?」「感染第2波、第3波への備えは?」といった心配の声も少なくないが、それに対する政府の答えが、10兆円の「予備費」の支出決定だった。

予備費とは日本国憲法第87条に規定されているもので、「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任で支出することができる」とされている。

本来、予算はそれこそ1円単位まで国会で審議されたうえで「使っていいよ」となるものだが、予備費は額が決まってしまえば、あとは政府が自由に使えるお金に化ける(?)ことになる。

必要が生じた時、即座に支出できるというメリットはあるが、国民が納めた血税がもとになっている予算を、国民の代表である国会のチェックなしで使うわけだから、極めて例外的な予算ともいえる。

つけ加えれば、今回は総額約31.9兆円の第2次補正予算の約3分の1にあたる、10兆円という巨額の予備費が組まれたことも異例だ。過去の予備費は通常で5000億円程度、東日本大震災の後でも1兆1600億円(通常の予備費3500億に8100億を計上)だった。

野党は、財政に関する権限は国会の議決に基づくという「財政民主主義」に反する、と批判している。

いずれにしろ、この巨額の予備費、誰が見ても適切だと思えるような使い方をする責任が政府にはあるだろう。