僕たちは希望という名の
列車に乗った

監督・脚本/ラース・クラウメ
原作/ディートリッヒ・ガルスカ(『沈黙する教室1956年東ドイツ―自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語』)
出演/レオナルド・シャイヒャー、トム・グラメンツ、ヨナス・ダスラー、ロナルト・ツェアフェルト、ブルクハルト・クラウスナーほか
上映時間/1時間51分ドイツ映画
■5月17日よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開
©Studiocanal GmbH Julia Terjung

 

冷戦下のドイツの高校生の瑞々しさ

ベルリンを東西に隔てる壁が建設されたのは1961年。5年前に発生したハンガリー動乱を受けて、東ドイツの高校生たちのとったある行動が大きな波紋を呼んだ。この実話をもとに、『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』(2016年)のラース・クラウメ監督が再び、第二次世界大戦後のドイツを描く。1950年代半ば、東ドイツは社会主義に基づいて発展する社会を信じ、若者は未来に希望を抱いていた。それなのに、社会に巣立つ直前の彼らが、なぜ国と敵対することになってしまったのか。「ベルリンの壁」建設前夜の東ドイツ社会が見えてくる。

東ドイツの高校生テオとクルトは、クルトの祖父の墓参りを口実にしばしば西ベルリンを訪れていた。12月のある日、彼らは映画館で流れたニュース映像の中の、10月に起きたハンガリー動乱の様子を観て衝撃を受ける。それは、東ドイツで伝えられている内容とは違っていた。二人は真実を知りたくて、法律で禁じられている西ドイツのラジオ放送を聴き、民衆蜂起の悲惨な結末を知る。クルトはクラスメイトに真実を伝え、「ハンガリーのために黙禱しよう」と呼びかける。この提案を賛成多数で認めた生徒たちは、2分間の黙禱を実行した。しかし、学校側は彼らの行動を反社会的なものとして警戒し、首謀者を捜すための厳しい調査と尋問が始まった。

 

検問があるとはいえ、ベルリンでは列車での東西ドイツの行き来が可能だった時代の話だ。誕生して間もない東ドイツは若者の教育に力を入れており、労働者階級の子テオと、エリート階級の子クルトがともに大学進学用の上級クラスで学ぶ。教育は労働者階級から脱出するための切符でもあった。ところが、理想に燃える若者が真摯な気持ちで行った黙禱は、大きな代償をもたらした。首謀者を明かさない限り、クラス全員の卒業資格を剝奪するという当局からの脅しが、生徒たちにとって、そして、彼らの家族にとってどれほど重いものかは想像に難くない。

テオ役のレオナルド・シャイヒャー、クルト役のトム・グラメンツが見せる、好奇心旺盛で正義感や仲間意識の強い若者らしさがまばゆい。二人とは意見が異なるものの、多数決の意思を尊重する生真面目なクラスメイト、エリックを演じるヨナス・ダスラーも印象的だ。端正な顔立ちのシャイヒャーは53年の東ドイツ暴動で挫折した父親からの期待と、自らの人生を切り開く決意の間で揺れる想いを演じて、涙を誘う。

当局は、最終手段として親の世代が話そうとしない苦い記憶を、子どもたちに暴露。その陰険な手口と脅しに、若者たちは不穏なものを鋭敏に察知した。冷戦下の東ドイツの高校生の瑞々しさ、仲間を裏切らない清々しい友情と、権力に屈せず未来を選択する若者たちの勇気に感動する。

 

ニューヨーク公共図書館
エクス・リブリス

監督:フレデリック・ワイズマン
©2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved

 

マンハッタン有数の観光名所で世界最大級の知の殿堂、ニューヨーク公共図書館。ドキュメンタリーの巨匠ワイズマンが、市民に開かれた同館の多様な取り組みを追う。公共とは何かを探る図書館員の会議や運営する幹部の姿勢に敬服し、3時間25分の長尺も短く感じるほど面白い。5月18日より岩波ホールほかにて全国順次公開

 

長いお別れ

出演:蒼井 優、竹内結子ほか
©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

 

中島京子の同名小説を、『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)の中野量太監督が映画化。アメリカでは、徐々に記憶を失ってゆく認知症を、「長いお別れ」とも言うそう。認知症が進む父親の介護に絡めて、二人の娘の人生模様も描かれる。他人事とは思えないストーリーは身につまされる。5月31日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開