細野晴臣
HOCHONO HOUSE
3000円
トロピカル・サウンドの新しい輝き
はっぴいえんど、YMOのメンバーとして、数々の名曲を手掛けた作曲家として、日本のポップスの礎を築いてきた細野晴臣。今、改めてその存在が注目されている。親子以上に年の離れた20代や30代のミュージシャンからリスペクトを集め、またそのファンを通して世代と国境を超えた人気を拡大しているのだ。今回は、音楽活動50周年を迎えた細野晴臣のソロ作品と「細野チルドレン」たちの新作を紹介したい。
細野を敬愛するアーティストの代表格は、国民的スターとなった星野源だろう。雑誌の対談やライヴでの共演も多い両者は、いまや師弟とも言える結びつきだ。
そんな星野に大きな影響を与えた細野の作品が、1973年に発表された1stソロアルバム《HOSONO HOUSE》。細野は先日、そのリメイク作《HOCHONO HOUSE》をリリースした。自宅にスタジオ機材を持ち込み、南国や楽園を想起させるエキゾチックなトロピカル・サウンドを展開しつつ、「宅録」の走りとして作られたオリジナル盤を、最先端のデジタル機材を用いてゼロから再構築。〈恋は桃色〉や〈薔薇と野獣〉など、色褪せない名曲が独自の先鋭的なサウンドと共に蘇っている。
never young beach
STORY
2800円
安部勇磨率いる4人組バンド、never young beachもまさに「細野チルドレン」だ。2015年のデビュー作《YASHINOKI HOUSE》以来、はっぴいえんどやティン・パン・アレーなど、1970年代の日本のポップスを2000年代以降の海外のインディーロックと融合させた音楽を展開。
最新アルバム《STORY》は、ゆったりとしたサウンドに心地よいメロディをのせた表題曲や、切なくメロウなソウルバラード〈うつらない〉など、曲調の幅を広げた充実作。熱情に流されない、繊細な響きを持った安部の低い歌声を活かしたアルバムに仕上がっている。ちなみに、細野が《HOCHONO HOUSE》の制作に至ったきっかけのひとつは、対談で会った安部がオリジナル盤の《HOSONO HOUSE》を絶賛したことにあるという。
Yogee New Waves
BLUE HARLEM
3000円
もう1組は、Yogee New Waves。前出のnever young beachとは世代やデビュー時期も近く、これまで何度もステージで共演してきた盟友的な存在。18年にメジャーデビューを果たしたばかりの彼らがリリースしたアルバムが《BLUE HARLEM》だ。サイケデリックなギターフレーズが印象的な〈Summer of Love〉や、ポカリスエットCMソングとして書き下ろされた〈CAN YOU FEEL IT〉など、ゆるく、そして包容感のあるバンドアンサンブルにのせて、青春のキラキラした情感を漂わせるメロディが響く。
このように、細野晴臣が1970年代に追求したトロピカルな音楽が、40年以上の時を経て、若いミュージシャンに強い影響を与えている。その勢いは国内だけにとどまらず、カナダ出身の29歳のシンガー・ソングライター、マック・デマルコも影響を受けた一人だ。先日、75年に細野が発表したアルバム《トロピカル・ダンディ》収録の〈HONEY MOON〉を日本語でカバーした音源をリリース。彼の活躍をきっかけに、アメリカやカナダでも細野の過去作が再発され、改めて評価が高まっているのだ。とても興味深い現象だと思う。