遺族が選んだ故人の写真を、シルクスクリーンに大きくプリント。葬儀会場ではパネルに貼る(写真提供:アーバンフューネスコーポレーション)
なぜ、お葬式をするのか。しなくてはいけないものなのか。右肩上がりの経済成長の時代には数百万円をかけた盛大な葬儀が一般的とされていたが、近年はかつて「密葬」と呼ばれた「家族葬」が中心となり、10万円を切る略式破格プランも登場。いま「常識」と思われてきた葬儀の形式、意味が問われ始めている。折しも「コロナ騒動」の渦中、新たな試みに取り組む葬儀社や僧侶に会いに行った

従来の祭壇の場所にあるのは

「お葬式」といわれて頭に浮かぶのは、遺影を見つめ焼香する姿や僧侶の読経ではないだろうか。テレビ等で生花や白木造りの祭壇を見慣れてきたからか「おおっ!?」と驚かされたのは、東京都江東区新木場の葬儀社の倉庫を訪れたときだった。

同行した30代の女性担当編集者も「うわぁ、これいいですね」と声をあげた。テーブル一面に広げられた、「法被の紅」が踊るシルクスクリーン(高さ230センチメートル)が祭壇の代わりとなるという。

実際の葬儀では、棺と遺影の背後に、パネルボードを2枚立て、そこにシルクの布を貼る。

「ご家族にお話をうかがうなかで出てきた写真をデザインさせていただきました」

説明していただいたのは、株式会社アーバンフューネスコーポレーションの長谷川綾さん。同社は東京、神奈川、埼玉、千葉の1000以上の式場と提携する葬儀社だ。

ほかにも満開の桜や紅葉、海の景色など、希望にそって自由に飾ることができる。「長期の入院で自宅に帰りたがっていた」と聞けば、パネル4枚を使い、書斎やリビングを再現することもしてきた。

がらんとしたホールであるほどスクリーンは映える。会葬者から「あれ、部屋にあったものを運んできたんですか?」と指差されるほどに、大きく引き伸ばされた写真は奥行きがある。「いえ、ぜんぶ写真なんですよ」「へぇー!!」。近寄り覗き込むや、賑やかな会話が起こるのも珍しくないそうだ。

「ご自宅の写真だと、ご家族の方にこういう角度で撮ってもらえますかと協力していただくか、スタッフが撮りにうかがうかします」

打ち合わせから告別式まで「中3日」がアーバン社の平均。その間デザイナーとやりとりを重ね、式場のレイアウトも練る。過去の施行例を見せてもらうと、柔道着姿の対戦写真を壇上に掲げ、棺の前には畳を置いた、元オリンピック金メダリストの葬儀に心がうごいた。

「武道館の館長を務めていらっしゃったので、そこの畳をお願いしてお借りしてきました」

故人の遺した書道の半紙や絵画作品を写真にして拡大するなど、さまざまな要望に対応可能だという。