良いお坊さんがいなければ、無宗教で
約束の時刻前に到着し境内を見てまわったが、昔からの墓地とは別区画に造成中の墓苑には、○○家代々の墓ではない、「やすらぎ」などの言葉を彫ったものが多く、十字架を刻んだ「グループ墓」さえ見受けられた。
「ああ、ご覧になりましたか。ぎょっとする人もいらっしゃいますが」と橋本さんは笑う。
お寺もコロナの直撃を受け、「3密」を避けようと法事のキャンセルが相次ぐなど、「影響は甚大」と言いながらも、住職の表情は明るい。今年55歳。また斬新な改革の一歩を踏み出していた。インターネットの葬儀社紹介サイト「お坊さんのいないお葬式」(NINE & PARTNERS株式会社)と業務提携を始めるという。
お坊さんを呼ばない「無宗教葬」に特化した斡旋会社とお寺がどう結びつくのか? 水と油のようなカップルの誕生だ。
「すでに本堂での葬儀については、無宗教も受け入れています」
本堂は宗派の肝心要の場でしょうに、「無宗教」を認めてしまってもいいのかなぁ? 率直に疑問をぶつけると、「お葬式はいま大転換期です。1日葬や火葬式が増えてきて。良いお坊さんがいなければ、無宗教でやればいいというのが主流になっていくと思いますね」という。
「お坊さんのいないお葬式」との提携にあたっても、すでに行ってきた葬儀同様に式は本堂を使い、司会進行などに携わる僧侶も作務衣姿で行う。つまり葬儀社の仕事を行うが、喪主さんの希望にそい「お経」はなし。ただ、そっと手を合わせはすることになる。
「まあ、みなさん驚かれます。寺院として名前を出して『お坊さんなしの葬儀ができる』とうたうのはうちだけでしょう」
宗門の了解を得ているのかと尋ねると、「問いかけているところ。いまは黙認というか、様子を見ているというところです」と飄々とした口ぶりだ。
「檀家制をやめて、丸8年かな。紆余曲折ありましたが、テレビに何度も紹介されて『送骨のお寺』として有名になり、いまも週にいくつも送られてきます。真似られる話は耳にしていますが、当院ではご懸念されるような、なんでもいいから送ってしまえという人はそんなにはいない。ご遺骨ですから、あそこだったら成仏できるんじゃないかと、救いを求められる人たちの共感が得られたから、やってこられたと思っています」
訪れたこの日、本堂では水子供養の法要が行われていた。見性院では最年少の、笑顔が気持ちいい役僧だったが、読経が始まるや顔が引き締まり声がずしりとくる。「お坊さんは要らない」つもりだったとしても、厳粛な空気を味わうや喪主として「あのぅ、お経も」と心が動くのではないか。そんな深慮遠謀もあってのことなのか。ご住職、カカカッと笑う。
「たしかに、『これもご縁だから、ここに納骨しよう』という人もいらっしゃいました。まず、窓を開けておかないと。そして、お寺に来てもらうきっかけになればいい。これが新しいお葬式ですよと知ってもらうことからです」