一枚板を使ったテーブルのある「お通夜室」のダイニング。襖を開けるとベッドを備えた寝室、バスルームへとつづく

オープンから2年半。会館はどうなっているのか足を運んでみた。

「新規の会館は利用が伸びるはずなんですが、予想より低かった」

と話すのはレクスト・アイ専務取締役の久保田哲雄さん。じつは荻原さん、取材後の2018年春に急逝されていた。メディアに取り上げられたが、残念なことに荻原さんの真意は伝わらなかった。

「みなさん、車が行列しているのを想像されるんですが、1回のお式で1台利用があるかないか。やはり故人のお顔を見てお別れをしたいという人が多いんですね」

一時は宣伝の柱から外していたこともあったというが、新型コロナウイルスの「緊急事態」で再び前面に打ち出すことになった。「お客様の安全のために『3密』を避けたい。『安心・安全』という観点から、いまは積極的にご提案させていただいています」

式場でも「ソーシャルディスタンス」で席を半分に減らすのはもちろんのこと。新聞の「お悔やみ欄」への掲載を控える。会食もなし。火葬場の立ち会いも10名以内と制限され、霊柩車への同乗もできないことが多い。

ドライブスルーばかりが注目されたパステルカラーの会館。じつは、時代の先端をいく特色がもうひとつあった。ホールの奥に造られた親族のための「お通夜室」はホテルのスイートのように広々としている。「1日1葬儀の貸切り」で、キッチンも付設。16人掛けの食卓が置かれたダイニングでは、久しぶりに親戚やきょうだいが集まり食事をしながら故人を想い、自宅のように一夜を過ごすことができるというものだ。

葬儀の現場に携わる人たちに話を聞くと、「事前相談」の利用とともに少人数の「家族葬」が一般化。通夜のない「1日葬」や、火葬場の炉前でお別れする「直葬(火葬式)」が急速に増え、葬儀社も「安価」を競いがちだ。

久保田さんは「邸宅葬」という言葉を使われたが、最後の晩餐をおもわせるダイニングーブルに座ると不思議と落ち着ける。「ご利用いただいたご家族には喜んでもらっています」と久保田さん。設計者の荻原さんが壁材にいたるまで工夫をこらした空間だ。

お葬式は「高い買い物」だと言われる。では、そこに何を求めるのか。立ち止まって考えてみるのもいい時期かもしれない。


《ルポ》いまどきのお葬式を見てみれば
【1】大きく引き伸ばされる故人の世界観《祭壇代わりのスクリーン》
【2】お寺ですが「無宗教葬」も行います《無宗教葬》
【3】新型コロナで《ドライブスルー方式》葬儀に再注目