現役の看護師として働くかたわら、院外のスピリチュアルケアにも力を注いでいる玉置妙憂さん

葛藤を抱えながらも夫の意思を尊重

実は、そうしたものに縛られているのは、患者さんだけではありません。

ご家族も「患者の家族」という役割に心を囚われて、患者さん本人の希望をきいていないこともあるのです。

前述のような人生会議で、患者さんが「もう何もしなくていい。このまま死んでいきたい」と言ったとき、「わかった。お父さんがそう言うなら、そうしよう」とすぐに納得できるご家族は多くありません。

かくいう私も、夫の看取りに悩み、そのために大きく人生観が変わった経験をしています。

夫の大腸がんが再発したのは、夫が57歳のとき。そのがんがすでに全身に転移していることを知った夫は静かに、しかしはっきりと言いました。

「もう積極的な治療はしない」

そして、最期の日々を家族と自宅で過ごすことを選んだのです。

当時、僧侶になる前の私は看護師でした。現役看護師の私からすれば、自宅では最良の治療ができるかわかりませんでしたから、その選択はすんなり受け入れられるものではありませんでした。私たちは何度も話しあいましたが、夫の意思は固いままです。

結局、私は葛藤を抱えながらも夫の意思を尊重することにしました。夫専属の看護師として、最期の日々をふたりの息子とともに支えることにしたのです。