《現代能楽集Ⅹ 幸福論~能「道成寺」「隅田川」より~》    撮影◎ヤン・ブース

注目の演劇人が能の世界観で「いま」を描く

能狂言の謡曲をもとにした現代演劇のシリーズ「現代能楽集」が第10弾を迎え、長田育恵、瀬戸山美咲という、数々の演劇賞を受賞するなど今注目の2人による新作2本を上演する。演出は2作とも瀬戸山だ。

そもそもこのシリーズ、世田谷パブリックシアター芸術監督の野村萬斎が古典の知恵を現代に還元し、舞台創造に活かしたいと企画したもの。第1弾は2003年で、川村毅による『AOI』『KOMACHI』だった。『AOI』では麻実れいの相手役として当時無名だった長谷川博己が抜擢され、強い印象を残している。以降、鐘下辰男、宮沢章夫、野田秀樹、倉持裕、前川知大、マキノノゾミ、小野寺修二と、日本の演劇界を代表するクリエイターたちが作品を発表。話題作ぞろいだが、とくに11年8月上演の前川知大による第6弾『奇ッ怪 其ノ弐』が出色だった。東日本大震災の記憶も生々しい時期に発信され、静かだが深い鎮魂歌として感動を呼び、第19回読売演劇大賞の大賞、最優秀演出家賞などを受賞している。

18年目の記念すべき今回のタイトルは『幸福論』。作家2人は打ち合わせで「どの人物も幸福を探しているんだよね」と盛り上がった。

「壱」を担当する瀬戸山が選んだのは「道成寺」。山伏への恋慕を募らせ大蛇となった娘の物語を、父、母、息子の幸福な家族がさらなる高みを求めた結果の悲喜劇に変換する。長田は「弐」で、旅路のはてに我が子の死を知った母の悲しみを描いた「隅田川」を、社会の片隅で運命的に出会った3世代の女たちの“ありえるかもしれない”物語として描く。

たとえば新型コロナウイルスが生んだ、「新しい生活様式」に対応できず取りこぼされ、声を上げられない人たち。そういう人たちの小さな「幸福」を見つけたい……。そんな長田の抱負に対し、瀬戸山は、物質的には豊かで「ある幸福」は体現しているが、その「幸福」をアップデートできない人たちの話になりそう、と語る。演出家としては、シニカルで笑える「壱」の後に、人間の内面にぐっと潜る「弐」を並べたい、という。

出演は、瀬奈じゅん、相葉裕樹、清水くるみ、明星真由美、高橋和也、鷲尾真知子。世代を超えた出演者6人が、それぞれの作品で異なる役を演じ、現代の幸福論を立ち上げる。

現代能楽集Ⅹ 幸福論~能「道成寺」「隅田川」より~

11月29日~12月20日/東京・シアタートラム
作/長田育恵(弐「隅田川」)、瀬戸山美咲(壱「道成寺」) 
演出/瀬戸山美咲 
監修/野村萬斎(世田谷パブリックシアター芸術監督)
出演/瀬奈じゅん、相葉裕樹、清水くるみ、明星真由美、高橋和也、鷲尾真知子
☎03・5432・1515(世田谷パブリックシアターチケットセンター)