入門者が増えたのは3・11以降
重松 「今、最もチケットを取るのが難しい」と言われる講談師の神田伯山さんの真打昇進・襲名披露もあり、2020年は新型コロナさえなければ、話芸がもっと注目されたはずでした。それまでの業界全体の盛り上がりを、肌で感じていらしたでしょう?
蘭 いやあ、すごく盛り上がっていました。伯山くんは大人気で、お客さまが鈴なりになって。寄席に若い方が増えましたよ。若いといっても30代ですが、私たちの世界では若い、若い。
奈々福 私は入門して25年になりますが、お客さまは以前とぜんぜん違います。おじいちゃんしかいませんでしたが、今は若い方で興味を持って来てくださる方が増え、客層が幅広くなりました。演者も、私の入門時は人生の大先輩方ばかり(笑)。今は後輩がずいぶん入ってきていますし、20代もいます。演者が若返ると、お客さんも若返る。
蘭 私が入門したのは16年前の2004年。講談の世界も、当時は入門してくる人が少なかった。どーんと入門者が増えたのは、2011年の3・11以降です。
重松 それ、興味深いなあ。
蘭 動機を聞くと、「いつ何が起こるかわからないから、好きなことをしたい」と。会社勤めしていた若い方が多い。
重松 演芸の世界というと、入門後の修業の大変さや、師弟関係の厳しさがありそうですが。
蘭 私は落語芸術協会に属しているので、落語家さんと同じ、見習いから始まって前座修業というのをやりました。寄席で師匠方にお茶を出し、着付けを手伝い、脱いだ着物を畳んで送り出し……。浅草演芸ホール、新宿末廣亭、鈴本演芸場など東京の大きな寄席は365日やっているので、修業も365日休みなし。まさにブラック職場(笑)。私はその修業を4年半やりました。当時はキツいなと思いましたけど、師匠方の芸を見たり、高座に上がっていなくても、お客さまの笑い声から間合いを肌感覚でんだり、いろいろなことを学べました。
奈々福 落語や講談の前座さんの修業にはフォーマットがあるんですね。ところが浪曲にはそれがない。一門、一門、師匠によって、教え方も、修業の仕方も違う。ただ、弟子入りというのはそれまでの自分を捨てて一門のなかに入り、擬似親子になることですので、「それまでの人生で身につけてきたものは捨てなさい」という面があります。厳しさの種類もいろいろですが、ハードルの高いことではあると思います。