左から、玉川奈々福さん、神田蘭さん、重松清さん(撮影:木村直軌)
若手の台頭でイメージが刷新され、ブーム到来といわれる「講談」と「浪曲」。近年、客層の幅が広がるなか、女性演者の活躍が目立っています。語りの芸と、浪曲に新たな息を吹き込むプロデュース力が評価され第11回伊丹十三賞を受賞した浪曲師・玉川奈々福さん。歌や踊りも取り入れたレビュー講談や婚活講談など、オリジナル新作でも人気を博す講談師・神田蘭さん。古くて新しい話芸の魅力に、重松清さんが迫ります(構成=福永妙子 撮影=木村直軌)

お客さまの前で語るのが仕事だから

重松 新型コロナウイルスの影響を受け、リモートでゲストのお二人にお目にかかります。

奈々福 重松さん、初めまして。蘭ちゃん、お久しぶり。

 奈々福おねえさん、よろしくお願いします。

重松 「蘭ちゃん」「奈々福おねえさん」と呼び合っているんですね。

 上下関係です。あっはっは。

奈々福 この世界は年齢に関係なく、入門の順番で上下が決まっていまして、私のほうが蘭ちゃんよりも入門が先なんです。

重松 浪曲と講談、ジャンルが違うなかで、交流はあるんですか。

奈々福 浪曲、講談、そして落語を総称して「演芸」といいます。それらを集めての企画もありますし、寄席や収録現場で顔を合わせたりも。浅草に木馬亭という浪曲の寄席がありますが、必ず一席、講談が入るんです。蘭ちゃんの出番があるときに、「久しぶり」「最近どう?」とおしゃべりしたり。

重松 舞台でお客さまを楽しませるお二人ですが、4~5月は外出自粛、商業施設の休業要請があり、寄席も長く公演中止。演芸人として、存在の根っこが揺らいでしまうほどの大変なことだったと思います。この時期、どう過ごしていらっしゃいました?

奈々福 毎日のようにあった仕事が、いっさいなくなって、家にいるしかしょうがない。ただ、私たちはお稽古しないと気がおさまらないところがありまして。それに浪曲はひとりの芸じゃないですし。

重松 三味線が入りますね。

奈々福 浪曲の三味線方を曲師と言うのですが、浪曲は、浪曲師とその曲師との二人芸なんです。私が主に弾いていただいているのが芸歴72年の名人、沢村豊子師匠。自粛期間中、他の人には会わずとも、豊子師匠のもとには2日にいっぺんくらい通って、声を出すようにしていました。ただ、目の前に目標がないとモチベーションは保てないですよね。

 Me tooです。私たち、ライブといいますか、お客さまの前で語るのが仕事でございますからね。私はラジオ番組をやっているので、唯一、仕事をしていたのはその収録くらい。もちろん稽古はしておりました。

重松 初歩的な質問ですが、話芸、語り芸としての浪曲、講談は、それぞれどのような特徴があるのでしょう。

奈々福 三味線に乗せて、歌うような独特の節まわしで物語を進めるのが浪曲です。義理人情やお涙頂戴もあれば、笑いもある。演目は、「国定忠治」や「忠臣蔵」などの古典はもちろん、今の時代に合わせた新作もあります。

 講談は、釈台という机を前に、手には張り扇。その張り扇で釈台をパパパッパンと叩いて調子をとりながら、物語をわかりやすく、お客さまにお伝えするもの。もとは史実の読み聞かせだったものが、大衆娯楽になったそうです。