私のカトリック少女時代

著◎メアリー・マッカーシー
訳◎若島 正
河出書房新社 2400円

ろくな衣食を与えられず、知識欲は抑圧され…

6歳の時に、悪性の流感で母親と父親を立て続けに亡くし、3人の弟と孤児になってしまう。父方の大叔母とその夫のもとに預けられるものの、そこでの生活は劣悪で──。

1912年生まれ。『グループ』などの作品で知られるアメリカの作家メアリー・マッカーシーが、子供時代からの十数年間を回想した『私のカトリック少女時代』を読むと、これほど苛酷な体験を、よくサバイブできたものだと、まずは感嘆の声がもれる。ろくな衣食を与えられず、知識欲は抑圧され、体罰が当たり前。かなり悲惨な生活を送っていたのに、それを綴る筆致が暗さを感じさせないのが、いい。シニカルな視線と闊達な思考と折れない心に、思わず拍手。

5年後、母方の祖父によって救い出されると、今度は修道院附属学校で信仰心を試されることに。学校の中で目立つ存在になりたいメアリーの悪戦苦闘ぶりがユーモラスなタッチで描かれ、その延長線の出来事によって生じた神の存在への疑念から、12歳で信仰を捨てるまでのエピソードの数々に、またも感嘆の声がもれる。

頭のいい女の子の痛快な言動を記録して、読んでいて気分が上がる本なのだけれど、回想録というジャンルに一石を投じる仕掛けがまた楽しい。全8章それぞれの後に、著者自らが、文章に誤りがないかどうか検閲を入れているのだ。いわば、一人ノリツッコミ。〈この記述はきわめて虚構化されている〉など、著者の記述を信じて読み進める読者に、いちいち冷や水を浴びせる。読みものとして楽しい回想録でありながら、「読みものとして楽しい回想録」に対する批判にもなりえている、メタ度の高さが知的かつユニークな1冊なのである。