無名の事務所から始まった7人の物語
もう一つは国家規模でのマーケティングだ。以前より国策としてエンターテインメント産業に力を入れてきた韓国は、アメリカの音楽フェスやコンベンションに積極的に参加してきた。
「韓国のアーティストは、フェスの終了後に現地の業界人やプレスを招いてパーティを開き、親睦を深めてきました。そんなふうに、継続的かつ地道に広報活動を行ってアメリカ市場を開拓したところにK-POPが育ち、BTSという実をつけた。もちろん大前提として彼らにそれだけの実力と魅力があったことは確かですが、こうした背景も無視できないと思います」と湯川さんは言う。
では実際のところBTSという存在は、現在、アメリカでどう捉えられているのだろう? 再び、キムさんに聞く。
「まず、アメリカのオピニオンリーダーや音楽産業の関係者が注目しているのは、BTSとARMYが起こしているグローバルな現象です。それがあまりにすごいので、『彼らは何者なのだろう?』と興味を持ち、曲を聴いたり歌詞を読んだりする人が増えている、という状況だと思います。また楽曲に関して言うと、最近のK-POPには壮大な曲、機械的でクールな曲が目立ちますが、BTSの曲は情緒的で温かいものが多い。そのあたりも新鮮に響いているような気がしますね」
BigHitという、無名の事務所から始まったBTSの物語。7人乗りの小さなボートで大海に漕ぎだした彼らは、今や国連総会で世界中の若者たちに向けてスピーチをし、韓国の兵役法にも影響を及ぼす存在になった。3月14日(現地時間)には、アメリカでグラミー賞の発表もある。彼らの歴史に新たな1ページが刻まれる瞬間を、ワクワクしながら待ちたいと思う。