言わない美学は格好いいと思うけど

 歌舞伎の世界は特に礼儀とかご挨拶に厳しいですが、先輩に注意されて肝に銘じていることは?

松也 三津五郎のお兄さん(十代目坂東三津五郎。15年死去)にあるお役をご指導していただいて、御礼に、お品物とお手紙をお渡ししたときのこと。僕はとにかく字が汚く恥ずかしいので、代筆してもらったんです。そうしましたら「お前、こういうものはちゃんと自分で書きなさいよ」とお叱りをいただきました。

これには後日譚もあって、「こうして注意していただけるのは、もう父のいない僕にとってはすごくありがたいことです」と、あらためて自分で一所懸命書いてお渡ししました。そうしましたらお兄さん、「お前ね、ほんとに字が汚いね」って。(笑)

 それは前に代筆だったことへの許しかもしれません。

松也 そうですね。お兄さんなりの愛情の示し方ですね。

右近 松也さんと僕とはひと世代微妙に違うから、厳しい注意を受けるような機会と、はみ出そうとする勇気をあまり持ち合わせていないのかもしれない。僕は青信号しか渡っちゃいけないという頭でいるから。

でも、一度危ない目に遭ったり、失敗したりしないと、成功するありがたみがわからないんじゃないか、とも思います。僕らは何か行動する前に考えちゃう世代だけど、僕はその中で、あいつはやってから考えるんだな、と思ってもらえるような、ひとつ抜けた存在になりたいです。

 感謝の気持ちというのは言葉に表さないと通じないと思うのですが、若い方々はどうですか?