女性のひとり世帯も増えている現在、
「終活」の一つとして準備しておきたいのが、遺産の行き先です。
亡くなる時、財産が何もないという人はいません。
身寄りがなく相続人もいない場合、財産は国庫に帰属することに。
一方、相続する親族がいても、遺した家やお金をきっかけに
トラブルが起きることも考えられます。
自分が生きた証ともいえる財産を、
有意義に活用する方法を考えておきたいものです

遺した財産を社会のために役立てる「遺贈」が増えています

自身が亡くなった後、財産の行き先は決めていますか?
家族に遺すだけでなく、社会のために役立てる仕組みがあります

自分の想いを
活かしてくれる団体に

おひとり様が亡くなり、遺言書もなく法定相続人がいないことが確定すると、故人の遺した財産は国庫に納められます。その金額は年々増加傾向にあり、2019年度にはおよそ600億円に達したという報告も。そんななか、「自分の遺産を何かの役に立てたい」という思いから、「遺贈」という選択をする人が徐々に増えています。

「遺贈」は生前に行う「寄付」とは異なり、自分の死後に財産を譲渡するため、遺言書が必要です。また、それを遂行してくれる執行者も重要。ちなみに法定相続人がいても遺贈は可能です。その場合は、相続人の「遺留分」を侵害しないように配慮しましょう。

遺贈先はさまざまで、福祉に役立ててほしい、子どもの健全育成・教育のために使ってほしい、あるいは環境保全、動物愛護、文化・芸術・スポーツ振興、災害復興、人権問題など、自分の関心事から選べます。大切なのは、自分がこれまで生きてきたなかで大切にしてきた「価値観」や「問題意識」などを振り返ってみることです。

遺贈は自分が亡くなった後で行われるため、活動を見届けられません。遺贈先を選ぶ際には、本当に信頼できる団体かどうかきちんと確認しておくことが重要でしょう。たとえば、生前に寄付をしてみて、丁寧なお礼状が届くか、活動報告が定期的に行われているかなどをチェックしてみるのも手です。あるいは直接足を運び、活動内容を見学するのもよいでしょう。実際、いくつかの団体に話を伺うと、遺贈を検討している方の見学が増えているとのことでした。

では、具体的にどのように手続きをすればいいのか、紹介していきましょう。

遺言書か信託で
確実に想いを届ける

遺贈のための方法は、主に2つあります。

1つは、前述したとおり遺言書に明記すること。遺言書には公証役場の公証人が作成する公正証書遺言と、自分で書く自筆証書遺言があります。自筆証書は費用がかからず何度も書き直せるメリットがありますが、自宅保管の場合、紛失や誰にも見つけてもらえないというリスクがありました。しかし2020年7月から、「法務局における自筆証書遺言書保管制度」がスタート(有料)。公的機関できちんと保管してもらえるうえ、死亡届とも連動する仕組みが近くはじまるため、紛失などのリスクはなくなるでしょう。私も自筆証書遺言を作成し、法務局で保管してもらっています。作成したことで、なんだか前向きな気持ちになりました。

遺言書には、遺贈する団体名と、何をどれだけ譲渡するかを書きます。遺贈先は複数でもかまいません。金額も決まりはないため、1万円でも1億円でも好きな金額を。ただし、具体的な金額を書いてしまうと、「遺贈のために生前お金を使えない」という本末転倒なことが起きかねません。「遺った金融資産の3割を遺贈」のように、金額ではなく割合を書いておくとよいでしょう。誤解が多いので申し上げておきますが、遺贈はあくまでも遺った財産の行き先を決めておくもの。ですから、生活を切り詰め、お金をわざわざ遺す必要はありません。精いっぱいお金を使って人生を生ききることこそが大切。そのうえで、たとえ少額でも財産を社会に役立てようという気持ちが尊いのです。遺言書作成が不安なら、司法書士など専門家に相談してもよいでしょう。

もう1つ、確実に遺贈できる手段として、信託銀行を活用する方法があります。手数料はかかりますが、確実性の高い安心な選択肢と言えるでしょう。

なお、遺贈は金銭が基本。不動産を受けつけている団体は現状少ないため、どうしても不動産をという場合は、相手が引き受けてくれるか事前に相談しておくことが大切です。

自身の姿形はなくなっても、想いは継承される。自分が生きてきたことが、未来の発展や社会課題の解決に繫がる。そんな充実感を得られるからでしょうか、遺贈を決めた人たちはとても安心され、晴れ晴れとした様子です。また、遺贈を受けるある団体は、「遺贈はその方の人生最後の想い。日ごろの寄付も大切ですが、それ以上に背筋が伸びる思いがします」とおっしゃっていました。

遺贈について興味があるけれど、どんな団体を選べばいいかわからないという人は、「一般社団法人 全国レガシーギフト協会」のホームページを参照するとよいでしょう。遺言の文例集や、全国の相談窓口、遺贈先の選定手順なども掲載されています。人生最後にできる社会貢献、「遺贈」という選択肢に、ぜひ興味を持っていただけたら幸いです。

アドバイス星野 哲(ほしの さとし)

立教大学社会デザイン研究所研究員

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。2016年に独立し、終活、看取り、エンディングなどの取材、研究を行っている。人との交流、縁を紡ぐ「集活ラボ」所長も務める。著書に『遺贈寄付 最期のお金の活かし方』など

「婦人公論」4月13日号「おひとり様の遺産の活かしかた」企画では、
下記の団体を紹介しています