友人との会話や日々の生活の中にヒントが
バブル真っ只中のころ、勤めていた会社にきていた証券マンに勧められ、株式投資をしていた由美さん(53歳・自営業)。その後のバブル崩壊で痛い目にあって以来、投資用口座はほうったらかしになっていたという。ところが8年前、友人が「バブル崩壊後も売らずに放置していた株が上がった!」とはしゃぐ姿に衝撃を受けた。
「そんなことってあるの!? という感じでした。でも考えてみたら、株価って上がったり下がったりを繰り返すんですよね。長い目で見れば怖くないし、老後資金を増やす手段になるのでは? と、本腰を入れてもう一度挑戦することにしました」
そのとき、由美さんは45歳。趣味のアクセサリー作りを仕事にしてみようと、大学卒業後から勤めていた生命保険会社を、早期退職制度に応募して辞めたばかりだった。そこで、手元にあった退職金1500万円の大半を、思い切って株に投資する。
「新聞やテレビで経済ニュースはよく見ていましたが、あくまで自己流で再スタートしたのです」
そんな由美さんの銘柄選びの基準は、明快だ。配当金の金額や、株主優待の質は言わずもがな。それより大事にしているのが、「自分がよく知っていて、愛着がもてる会社の株」であることだ。
「会社員時代に取引のあった〈電通〉は、働いている人のことを少し知っているから、たとえ損しても『応援代だ!』と思えて、恨む気持ちにはなりません」
そして、友人との会話や日々の生活の中にも、投資先を決めるヒントはあふれているのだという。
「たとえば先日、友人と一緒に行った〈コメダ珈琲店〉は、もともと名古屋のお店ですが、数年前から東京にも出店しています。たくさんの人が居心地よさそうにしていて、これは株価も上がるかもと思い、しばらく動向を観察。まだ伸びそうと判断して購入しました。ほかにも、スーパーで山積みになっている新商品のお菓子があった場合は、その会社が上場しているか調べたり。商店街を歩くほうが、株の動向が肌でわかる気がします」
ちなみに、由美さんには投資に詳しい夫(49歳・自営業)がいる。しかし、株に関する会話は皆無なのだという。
「夫は、パソコンを3台くらい使って、株式市場が開いている間は部屋に閉じこもり売買をしているみたい。いわゆるデイトレーダーです」
しかし、由美さんは夫のように一日で大量に売り買いするのは、自分に向いていないと考えている。
「だって、デイトレは心が乱されるでしょう? 私はもっと穏やかなのがいい。そもそも、私が投資をしているのは、『老後の心の安定』のため。投資によって現在の精神を乱されては、意味がないもの」
心が乱されない投資を実現するために、由美さんはいくつかマイルールを決めている。
「日々の株価変動で一喜一憂しない。大きな博打はせず、小さな利益で満足することを心がけています。とはいえマイナスにならないよう、下がった株は利益の出ているものと一緒に売り、プラスマイナスゼロにして、心にしこりを残さない、とか」
買い値と売り値のラインを決めるのもそのひとつだ。日々株価をチェックし、その株の値動きの上限と下限が見えてきたら、これ以上高いときは買わない、これ以上下がったら売る、とルールを設けているのだ。
「ルールを破らないことで、毎年約30万円ずつ資産が増えています」
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三者三様の投資生活から見えてきたのは、全員が一度は株で失敗しているということ。痛い経験にフタをせず、次につなげたからこそ、自分なりの投資との向き合い方を見つけられたのかもしれない。不安になりすぎず、私もまずは始めてみようかな。将来、子どもに経済的負担をかけないためと目標を決めて。