その一方で、伯父のアパート管理業務は続けていた靖典さん。月末には上京し、アパートの見回りついでに、必ず伯父の様子伺いにも行っていたという。
「菓子折り持参で近所の方に『伯父をよろしくお願いします』とご挨拶。『何かあったら、ご連絡ください』と、携帯番号も渡してね。そのくせ、伯父が倒れるとか死ぬとかってことを、なぜか深く考えていなかったんです。伯父は80歳を超えても、頭も足腰もしっかりしていて、『医者の世話になったことがない』が口癖。確かに、僕が知る限り大病したことはありませんでしたから」
しかし約3年前、伯父の近所の人から、「伯父様、庭先で亡くなっていました」との連絡が。心不全だった。
「もう、途方に暮れました。まず、伯父の交友関係なんて知らないし、親族は亡くなった母しか浮かばない。アドレス帳や携帯電話の電話帳もチェックしたけれど、親密度は不明。訃報を誰に伝えたらいいのか、まったくわからないんです。結局、葬儀はせず、僕ひとりで火葬し、母の実家のお墓に納骨しました」
相続なんて、放棄したいくらいで
やっかいだったのは、相続だ。伯父には、預貯金、自宅、経営するアパートなどの資産があったが、遺言書がなかったため、伯父の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せ、相続権利者を確定、その全員の承諾を得ない限り相続が頓挫してしまう状況になったのだ。
「正直、煩わしくて逃げたかった。僕は、漁業さえできればそれで十分。面倒な手続きが必要な相続なんて、放棄したいくらいで。でも、放棄するとアパートの経営がどうなってしまうかわからないし、住人に迷惑がかかるかもしれない。住人は居住歴の長い方が多く、僕は月イチの見回りをきっかけに親しくなっていたんです。だから、それは避けたかった。弁護士に一任したところ、驚くことに、母と伯父にはすでに亡くなった姉がいて、その息子が健在だということが判明したんです」