母と伯父がなぜ姉の存在を隠していたのか、今となっては知る由もない。ただ、弁護士によると、その姉は、若い頃に家出し、以来、家族と一切関係を絶っていたようだという。
突然現れた従兄弟は、「遺産をすべて折半してほしい」と要求。異論のない靖典さんは伯父の家を売却して現金化し、預貯金と合わせてその半分を渡した。が、アパートの敷地売却だけは、住人を追い出すことになるため断固拒否。管理は靖典さんが担当し、管理費以外の家賃収入を全額渡すことで丸く収めたそうだ。
「もうひとつ大変だったのは、伯父の自宅の整理。とにかくモノが多く、ひとりで対処するには1週間はかかりそうなありさまでした。そこで専門業者に、明らかなゴミ、遺族にとっては大切かもしれないもの、貴重品などを大まかに分ける作業を頼んだのです。僕も立ち会ったのですが、僕のお食い初め、七五三などの写真がいっぱい出てきて。伯父に愛されていたんだなって、涙が止まらなかった」
何はともあれ、伯父が遺言を残していなかったがために、複雑な相続問題に振り回された靖典さんは、遺言の重要性を痛感した。その後、親しい知人を遺言執行者とし、弁護士に遺言書を預けたという。
「僕は独身だから、死後の遺族は、面識のなかったあの強欲な従兄弟ただひとり。彼に僕の財産を残すのは、断じてごめんです。それで、遺言書には『全財産、恵まれない子どもたちの施設に寄付します』と明記しました。遺言は、いくらでも書き換えられます。もし今後、愛する家族ができたら、改めるつもりです」