子どもがいないおじやおばの看取りを引き受けるのは、甥や姪しかいない。3人目は血の繋がりがない「母の恋人」の介護をすることになった美奈さんのケースです。(取材・文=武香織)

《ケース3 美奈さんの場合》
母の遺した恋人が半身不随に

血の繋がりがまったくなくても、「看取り」に奔走する人もいる。亡き母の恋人・達也さん(78歳、仮名=以下同)と同居し、介護に追われているのが、書店勤務の美奈さん(55歳)だ。

美奈さんは約5年前、夫の浮気が原因で息子を連れ離婚。幼い頃に病死した父親が残した実家には、母親が趣味で通う川柳教室で出会った恋人を招き入れたばかり。しかし、家賃を支払い続ける自信のない美奈さんは、「お邪魔」と恐縮しつつもやむをえず実家へ戻った。引っ越しの日が、美奈さん親子と達也さんの初対面だったという。

「達也さんは、私と息子の荷物の整理を手伝いながらいろいろな話をしてくれました。死別した奥さんは身体が弱く子どもを授かれなかったこと、母が亡き父を想う川柳に共感し意気投合したこと、母と再婚しないのは天国にいるお互いの伴侶を思いやってのこと……。そして何度も何度も、『子どもと孫みたいな存在ができて、俺は本当に幸せだ!』って。私と息子を快く迎えてくれた達也さんには、感謝しかありませんでした」

ところが、穏やかな4人暮らしは長くは続かなかった。半年後、息子が遠方の大学へ進学し寮生活を始めたのと同じ時期に、母親が心不全で急逝。優しくて家事上手な達也さんとのふたりきりの生活は別段苦でなかったが、一昨年、達也さんが脳梗塞を起こし、右半身不随に。予期していなかった展開に、美奈さんは愕然とした。

「達也さんは、トイレはなんとかひとりでこなせるし、入浴はデイケアの方が補助してくれています。でも、誤嚥防止用の食事の支度と介助、たまの粗相や食べこぼしで大量に出る汚れものの洗濯、定期的な通院と、こまごまとした身の回りの世話が一挙に押し寄せてきた。仕事もあるし、もうヘトヘト。じゃがいもをすり鉢でつぶしながら、声をあげて泣いたこともあったな……」