集めた旅行パンフを全部捨てた

贅沢しなければ夫婦二人で十分暮らせるだけの蓄えがありますし、双方の親はすでにおらず、娘たちは全員結婚して家庭を持っています。約束したわけではありませんが、定年になれば当然、二人であちこち旅行できるものと私は思いこんでいました。

しかし、いざ旅行ガイドブックやツアーのパンフレットを見せると、「いや、いい。行かない」とそっけない返事。なにか理由があるわけではなく、心底興味がないようです。現役時代は週末のたびにゴルフや釣りに行き、むしろ率先して「出かけよう」と言うタイプの人だったのに。

周りの友人はといえば、やれ温泉旅行だやれクルーズツアーだと、夫婦であちこち楽しそうに出歩いている人ばかり。あたりまえのようにみんなができていることを、どうして私はできないのでしょうか。

友人たちから見れば、夫は「穏やかで優しそうな、よくできた旦那さん」。悩みを話しても、なかなかわかってもらえません。「たまたまじゃないの」とか、「そのうち行きたいって言ってくれるわよ」と、その場しのぎのようなことを言われて、かえってストレスが溜まるので相談することもできなくなりました。あげくコロナ禍で旅どころではなくなり、集めたパンフもすべてゴミ箱行きです。

先日、娘たちに「最近お父さんが怒りっぽくなって。物覚えも悪いし、なにもかも面倒がるの」と電話で打ち明けたところ、「えっ、お父さんってそんなに怒る人だっけ?」と信じてもらえず……。一緒に暮らしていない子どもたちから見れば、私の悩みは大したことではないのかもしれません。

平穏無事だと思っていた私の結婚生活。一緒に楽しく暮らせたのはたった3年で、待ちに待った老後の同居がこれほど重苦しいものになるとは。私の老後とはいったいなんなのでしょう。息がつまるような時間がずっと続くのかと思うと、気持ちは沈んでいくばかりです。


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