サッカー選手として現役時代から社会貢献活動を行ってきた北澤豪さん。引退後は、JICA(国際協力機構)のオフィシャルサポーターに就任し、50以上の発展途上国を訪ね、青年海外協力隊の視察と、現地の子どもたちにサッカーを教える活動を続けてきました。6年前からは、「ドナルド・マクドナルド・ハウス」を支援するためのチャリティフットサル大会も主催。北澤さんが、長年ボランティアを続ける理由を伺いました

外国人選手の自然な姿に憧れて

社会貢献と聞くと、なんだか「特別なこと」と感じる方もいるかもしれませんが、僕にはそういう意識がまったくありません。

そもそも、僕がこうした活動に興味を持ったのは中学生のとき。ジュニアユースの練習に通っていた読売サッカークラブで、所属していた外国人選手たちが時折、障がいのある子どもたちをグラウンドに招いて一緒にサッカーを楽しんでいたんです。日本では、健常者と障がい者が一緒にサッカーをする光景は当時はまだめずらしいものだったのですが、彼らの祖国のブラジルやドイツではあたりまえのことだったのでしょう。10代の自分にとって大きな憧れだった選手たちが、ごく自然に障がいのある人たちをサポートしている。その姿を見て、プロのスポーツ選手は、「誰かに手を貸すこと」をあたりまえにできる存在でなければならない、自分も将来はそうなりたいと強く思ったんです。

その後、サッカーの日本代表チームメンバーとなり、海外の国を訪ねる機会が増えると、その思いがいっそう強くなりました。たとえば、2002年に日韓ワールドカップが開催されたとき。日本は開催地として国全体がお祭りムードでしたが、同じアジアの国、たとえばカンボジアやシリアの人たちは貧しい暮らしを強いられて、スポーツを楽しむ余裕なんてまったくなかった。そんな過酷な環境にいる子どもたちにもサッカーの楽しさを知ってほしい。そう考えたことがきっかけで、アジアの国々にサッカーを教えに行くようになったのです。国際大会に出場できるようなチームを作れば、それが追い風となって国の経済も潤っていくのではないか、そんな夢もあって。

こうした活動を通じて、04年にJICAのオフィシャルサポーターに就任。コロナ禍の前は、1年に一度は発展途上国を訪れていました。

新たな仲間作りや発見を楽しみながら

ハウスを視察し、子どもたちと触れ合う北澤さん(写真提供◎ドナルド・マクドナルド・ハウス財団)

6年前からは、難病を抱えた子どもたちとその家族のための滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」を支援するためのチャリティフットサル大会も、日本各地で主催しています。各地で多くの人と触れ合うと、得るものがたくさんあるんですよ。

16年に日本障がい者サッカー連盟会長に就任してからも、新たな発見の連続です。特に、ブラインドサッカーの選手たちには驚かされました。彼らは目が見えないため、鈴の音とチームメイトの声だけを頼りにボールを追いかけていく。それができるようになるまでの練習は並大抵のものじゃない。彼らの姿を10代のころの僕が見ていたら、限界を決めずもっと努力していただろうって。そうあらためて気づかされたのです。

ここ数年はSDGsの概念が広まり、誰もが平等であること、心地よく過ごせる環境を作ることがあたりまえになってきました。誰かのために行動することも身近になってきていると感じます。僕の場合も、新たな仲間作りをするような感覚で支援活動を楽しんでいるんです。多くの人と出会うと、自分の世界がどんどん広がっていく。それが何よりも楽しいから、続けられているのだと思うのです。

2010年、アフリカ大陸で初開催となった南アフリカのサッカーワールドカップ。世界中が盛り上がる一方、現地での認知度は低かった。そこで北澤さんは、開催1年前より現地の子どもたちにサッカーを知ってもらう活動を行ったそう(写真提供◎JICA)

 身近なところでいえば、毎日の買い物だって誰かを支援する活動になりますよね。フェアトレード(公正な取引)の商品を買うとか、同じ野菜を買うのでも、被災地の農家の方が作ったものを選べば、復興支援につながるでしょう。僕は時計を買うときに、購入金額の一部が環境保全団体に寄付されるスイスの時計メーカーのものを選びました。大気汚染防止や環境保全活動に、少しでも貢献できればという思いからです。自分の仕事や趣味、専門スキルを無償提供して支援する「プロボノ」も、トライしやすいのではないでしょうか。

そろそろ終活の準備をしようと考えている方は、遺贈も立派な社会貢献になりますね。誰もがこれまで多くの人に支えられて生きてきたわけですから、人生の最後に感謝を込めてその恩を社会に還元する─。僕も興味があります。遺産のすべてでなく、一部を自分が支援したい団体に遺贈するので十分。身寄りのない方なら、財産が残っても国庫に帰属するだけなので、自分の意志で寄付先を決めるのはいいことだと思います。

苦しい状況に置かれたときほど、人間は自分のことばかり考えがちですが、そんな自分を助けてくれるのは、他者です。他人がいてこその人生ですし、他人がいなければ味気ない。だからこそ、自分に余裕があるときに、誰かの幸せをちょっぴり手助けすると、それが巡り巡って、自分の幸せにつながるのだと思っています。

北澤 豪(きたざわ・ごう)

サッカー元日本代表、日本サッカー協会理事、
日本障がい者サッカー連盟会長

1968年東京都生まれ。サッカー元日本代表。読売サッカークラブ(現・東京ヴェルディ1969)に所属し、日本代表としても多数の国際試合で活躍。引退後の2004年にJICAオフィシャルサポーターに就任。日本サッカー協会理事、日本障がい者サッカー連盟会長を務める