対日圧力は必至?
「これからの日米にとって一番大事なのは『対中関係をどうするか』。安全保障面では同盟関係を強化することが基本だ。しかし、日本は経済的には中国のマーケットに依存している。これから経済関係を規制していくとなると、日米の利害が違ってくる可能性がある。その時に駐日大使が果たす役割は大きい」=田中氏
「同盟国であっても国益は異なる。エマニュエル氏は敵にしたら怖いが、味方にしたら心強い。怖いけれども頼れる相手とタッグを組む、という覚悟が必要になってくる」=渡部氏
吉田日米関係の深化に貢献した歴代大使が数多くいたのは事実ですが、利害が衝突する場面では大使は手ごわい交渉相手ともなります。例えば、80年代末から90年代初めにかけて大使を務めたマイケル・アマコスト氏は、日米貿易摩擦などを背景に「ミスター外圧」と恐れられました。果たしてエマニュエル氏は「怖い」存在になるのか、それとも「頼りになる」人物か。その動向から目が離せません。
飯塚私は、着任直後のエマニュエル氏が2月早々に発したツイートに目を見張りました。ロシアのガルージン駐日大使がウクライナ問題に関して、「日本が対露制裁を発動すれば両国の善隣友好の精神に反する」と述べたのに対し、彼はこう反論したのです。「ロシア大使が日本を威嚇したタイミングはこれ以上ないほど悪い。次の月曜日は北方領土の日であるという自覚を欠いたものだ」。これは日本擁護の発言であると同時に、「同盟国として日本は毅然とした対応を取れ!」という叱咤でもあったと思います。
吉田2014年にロシアがクリミアに侵攻した際、日本の対露制裁は徹底を欠きました。北方領土問題を抱えているという事情があるにせよ、米国から日本の対露政策が不徹底に見えたのは当然かもしれません。しかし、2月末にロシアがウクライナ侵攻という暴挙に踏み切ったことで、日本も徹底した対露制裁に踏み切りました。今後も米国との連携は極めて重要です。日本政府は新大使と十分な意思疎通を図っていく必要があるでしょう。
飯塚ウクライナ侵攻を機に、世界は冷戦時代に戻ったかのように、核戦争も含め、基本的な安保の議論を再考しています。岸田政権は「外圧」ではなく、日米同盟を基軸に主体的に世界戦略を構想する必要があります。やり手の新大使をパイプ役に、同盟強化を世界の安定にどう生かすか。日本の戦略が試されます。
飯塚恵子/いいづか・けいこ
読売新聞編集委員
東京都出身。上智大学外国語学部英語学科卒業。1987年読売新聞社入社。 政治部次長、 論説委員、アメリカ総局長、国際部長などを経て現職。
吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員
1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。