私自身、「ママ」として肩肘を張って生きていたことも、恋愛スイッチが入りにくかった大きな理由かもしれません。前の夫との離婚以来、「私一人で二人の子どもをしっかり育ててみせる」と決意して過ごしてきました。仕事と子育てに追われて、風邪ひとつひくわけにはいきません。

そんなとき、忘れられない夢を見ました。寝ているときに黒いオバケみたいなものが現れ、私に覆い被さったんです。私は金縛りで身動きが取れないのに、「負けるもんか」と力を振り絞り、その黒いものをつかんで遠くへ投げ飛ばした。私、闘っていたんでしょうね。

決して、結婚や恋愛に懲りていたということではありません。でも、自分はこのまま一人で過ごすのだろうかとか、誰かとこの先、再婚することがあるだろうかなんて、頭に浮かぶことすらなかった。そんなところへ現れ、私たち家族のなかにすっと入ってきてくれたのが彼だったのです。

 

娘の思いが私たちの背中を押してくれた

あの日、いつものようにわが家でご飯を食べ、子どもを寝かしつけ、二人で向かい合ってお茶を飲んでいるとき、突然彼が居ずまいを正してこう切り出しました。「お付き合いしてください」。

それを聞いて「一番大切なのは子どもです。子どもを差し置いての恋愛は考えられません」と、即答していました。もしも、彼があそこで引き下がって終わっていたら、今の幸せはなかったと思います。

でも彼が「子どものことを一番大切に考えているもえちゃんが、僕は好きなんです」と言ってくれたので、子どもぐるみのお付き合いが続くことになりました。それが2013年の春。それから1年ほどかけてゆっくりと、彼は私と子どもたちにとって、かけがえのない存在になっていきました。

14年の6月、わが家で娘のお誕生会を開いたときのことです。娘の仲良しのお友達とそのお母さんを招いて、みんなが集まっているところへ彼が遅れて登場しました。その姿を見たとたん、娘が大声で「パパー」と言いながら走って彼の胸に飛び込んだのです。もうびっくりして感激して、私はほとんど泣きそうでした。

娘は全身で「大好きなパパがここにいるの」と表現していました。うんうん、きみはそのことを、ずっと前からみんなにアピールしたかったんだよね。そんな娘を抱きしめる彼は、感無量という表情だった。「ああ、私たちは家族になれる」と、私はそのとき確信しました。

そこに居合わせたお母さんたちは、びっくりです。「え? 今の何?」「何も聞かなかったからね」「胸に収めておくからね」みたいな(笑)。周りの方がみなさん温かくて、何度も助けられました。娘はその日から「パパのことは解禁」と決めたみたいで、学校の先生や習い事の先生に、「パパがね」「パパがね」と話しまくった模様。私はあちこちで「実は、お聞きしちゃったんですけど……」と耳打ちされて。(笑)

でも、そんな娘の姿が、存在が、私たちの背中を押してくれました。私はそれを機に、「ちゃんと前へ進めよう」と思うようになったし、たぶん彼も同じ気持ちだったと思います。