ウクライナ妥協の可能性

「現在の犠牲を避けるために停戦したところで、ロシア軍の占領地域ではブチャでの惨劇のようなことが起こりかねない。結果としてウクライナが停戦に向かうのは難しいと思う」=鶴岡路人・慶応大准教授(同)

「米国はまだ民主主義の盟主としての旗を降ろしていない。それだけにウクライナ国民を見捨てられないが、直接の軍事介入もできない。相矛盾する論理のはざまで米国自身も落とし所がはっきリ見えないのではないか」=中山俊宏・慶応大教授(3月31日)

飯塚両国が「妥協的和平」で歩み寄れるかといえば、これも難しい。ウクライナのゼレンスキー大統領は5月21日のインタビューで、「勝利は戦場で勝ち取る。が、戦争の終結は、外交を通じて獲得するものだ」と述べました。さらに「交渉のテーブルにつかないと終結できない事柄がある。我々はすべてを取り返したいが、ロシアは何も返したがらないからだ」とも述べ、双方が「根本的解決」を目指している厳しい現状を指摘。打開するには外交交渉、つまり「妥協的和平」の道を探るしかない、と示唆したようにもみえます。

”根本的解決”と”妥協的和平”©️日本テレビ

吉田例えば、ウクライナ側が東部ドンバス地方におけるロシアの支配権を一部認めるなどして「プーチンの面目を保つ」といった手も考えられないではないでしょう。しかし、それでは武力による現状変更を図った「ならず者国家」を放任し、国際秩序を否定してしまうことになります。千々和モデルに即していえば、国際社会が一致団結し、いかに難しくともロシアを「妥協的和平」に追い込むよう「現在の犠牲」を強いることが重要ではないでしょうか。戦闘の長期化は避けられませんが、しばらくは我慢比べを続けていくしかないと思います。

プーチン大統領©️日本テレビ

飯塚今後の焦点はウクライナを支援する西側諸国、中でも米国がどこまで真剣に全面的な支援を続けるか、ではないでしょうか。米国は対露経済制裁に加え、兵器の提供などの軍事的支援を増大しています。しかし、長期的には対中国戦略に軍事的リソースを割いていかねばならない。「いつまで支援を続けるのか」という疑問の声が国内で高まってくる可能性がある。最終的には、日本を含む西側諸国が停戦後のウクライナ復興支援を全面的に支えると約束する代わりに、ロシアの侵攻開始前の状態に戻すということでゼレンスキー氏に諦めてもらう――ウクライナの人々には気の毒ですが、そんな方法も考えざるをえないのが国際政治の現実なのではないでしょうか。