概要
旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫るBS日テレの報道番組「深層NEWS」。(月〜金曜 午後10時から生放送)読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める飯塚恵子編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。
ロシアのウクライナ侵攻開始から3カ月半。戦闘の泥沼化が懸念される中で、戦火が止まるまでの道筋にはどのようなシナリオが考えられるのか。3月31日と4月20日の放送に出演したゲストの発言を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。
戦争終結その道筋は
考えにくい一方的勝利
「戦争終結の形態は大きく言って二つある。一つは『紛争原因の根本的解決』で、相手を叩きのめして将来の禍根を断つ。もう一つは『妥協的和平』で、将来の危険を残してでも現在の犠牲を回避する」「根本的解決のためには現在の犠牲を払わないといけない。妥協的和平で現在の危険を回避しようとすれば、将来の危険と共存しなければならない。あちらを立てればこちらが立たずという関係で、それが戦争終結を難しくしている」=千々和泰明・防衛省防衛研究所主任研究官(4月20日)
吉田ロシアのウクライナ侵攻に伴う戦闘は依然やむ気配がありません。その終結に向けて今後どんな展開が考えられるのか。この点に関して最近注目を集めているのが、昨年『戦争はいかに終結したか』を刊行し、戦争終結の形態に関する「千々和モデル」を提唱した千々和氏です。これまで日本では、戦争が始まる経緯の研究と比べて「終わらせ方」の分析は乏しかった。このモデルは今回の戦いの終わらせ方についても考えるヒントを与えてくれます。
飯塚千々和氏は、「妥協的和平」の実例としては1991年の湾岸戦争を挙げています。多国籍軍は、クウェートに侵攻したイラク軍を撃退しましたが、フセイン政権の打倒まではしなかった。もう一つの「紛争原因の根本的解決」の代表例は、ナチスドイツを解体した第二次世界大戦です。では今回はどうか。それぞれの「根本的解決」は全く真逆で、ロシアにとってはウクライナの完全属国化、ウクライナにとってはロシアが支配するクリミアの奪回ということになるでしょう。
吉田しかし、ロシアがウクライナ全土を掌握するのは今となっては不可能です。ウクライナがクリミアを取り戻すシナリオも、ロシアの強硬姿勢を考えればありえない。冷戦後のロシアは西側社会に接近し、グローバリズムの世界で共存していくとの期待があったものの、今や完全に権威主義に先祖返りしてしまいました。プーチン大統領の失脚を期待する声もありますが、彼は警察や諜報機関からなる「シロビキ」を通じて国内を統制していると言われます。一方の屈服による根本的解決は考えられないというのが現実です。