椎名林檎
三毒史

EMI Records
3000円

椎名林檎の演出家的な発想力が開花

J-POPの世界では、アーティスト同士のクリエイティブなコラボレーションが盛んになっている。今回は、そんな新作を紹介したい。

まずはデビュー20周年を迎えた椎名林檎による、5年ぶりの新作《三毒史》。昨年の『NHK紅白歌合戦』でも大きな話題を呼んだ、エレファントカシマシ宮本浩次との妖艶なデュエット〈獣ゆく細道〉を筆頭に、数々の男性シンガーとの共演が繰り広げられる。ヘヴィなビートに乗せてBUCK-TICKの櫻井敦司と叫びを重ねる〈駆け落ち者〉、向井秀徳が念仏のようなラップを披露する〈神様、仏様〉、銀座をモチーフにした洒脱(しゃだつ)できらびやかなモータウン・サウンドに乗せて、トータス松本とのデュエットが繰り広げられる〈目抜き通り〉など、曲調もバラエティに富む。

タイトルの「三毒」は仏教に由来する言葉。1曲目〈鶏と蛇と豚〉のオープニングが般若心経の唱和から始まるというコンセプチュアルな内容のこのアルバムで、豪華ゲストたちが椎名林檎の演出家的な発想力を開花させている

 

 

 

HYDE
ANTI

ヴァージン ミュージック
3000円

L'Arc〜en〜CielのヴォーカリストHYDEが、ソロ名義のオリジナル作としては13年ぶりとなるアルバム《ANTI》をリリース。こちらも旺盛なコラボレーションが実現している。PABLO(Paymoney Tomy Pain)など若い世代のアーティストを作曲家に迎え、本格的なラウドサウンドを展開。〈SICK〉ではアメリカのニュー・メタルバンド、フロム・アッシュズ・トゥ・ニューのマット・ブランディベリイを客演に迎えている。

また、古語を歌詞に用いた壮大なバラード曲〈ZIPANG〉は、X JAPANのYOSHIKIをピアニストとして迎えたナンバー。アルバム全体は、アメリカのモダン・ヘヴィ・ロックを意識した重く刺々しい曲調が主体だ。アメリカのロックフェスに照準を定め、ワールドワイドな視野で新境地を開拓した一枚。

 

 

 

菅田将暉
LOVE

エピックレコード
2963円

主演をつとめたドラマ『3年A組—今から皆さんは、人質です—』も評判を集め、俳優として大きな飛躍を続けている菅田将暉は、2017年より歌手として音楽活動を開始。2018年にリリースされたデビューアルバムに続いて、2作目《LOVE》を発表した。

バンドマン役を演じた映画『何者』をきっかけに、同世代のミュージシャンたちと交流を深めるようになった菅田。本作でも親交のあるアーティストたちがこぞって楽曲を提供している。〈灰色と青〉で以前にも菅田とデュエットをしたシンガーソングライター米津玄師の提供曲〈まちがいさがし〉は、彼の芯の強い歌声を活かす情熱的な一曲。〈マリーゴールド〉でブレイクした女性シンガーソングライターあいみょんとは、女性目線のラブソング〈キスだけで feat.あいみょん〉でデュエットしている。ほかにも石崎ひゅーい、秋田ひろむ(amazarashi)、柴田隆浩(忘れらんねえよ)など気鋭の面々が楽曲提供に参加。菅田自身も作詞作曲に挑戦し、同世代の才能との出会いによって彼の音楽家としての表現力が引き出された。

互いに才能を認め合う存在だからこそ、手を組むことによって独特の化学反応が生まれるのだろう。3枚の新作からは、そんなアーティスト同士の信頼関係も感じ取ることができる。