人喰い
ロックフェラー失踪事件

著◎カール・ホフマン
監修◎奥野克巳 訳◎古屋美登里
亜紀書房 2500円

首狩り族と生活を共にし、「人肉食」の謎に迫る

スタンダード・オイルの創設者ジョン・D・ロックフェラーの孫にして、ニューヨーク州知事で後に副大統領になるネルソン・ロックフェラーの息子。銀のさじをくわえて生まれてきた青年マイケルが、オランダ領ニューギニアの南部、首狩り族といわれているアスマットの人々が暮らす地域で消息を絶ったのは、1961年11月。現地の美術品の買いつけにきているさなかの出来事だった。

アラフラ海を移動中、荒波を受けた小さな船が転覆。体力に自信があるマイケルは、約16キロメートル先の岸を目指して泳ぎ出し─。『人喰い ロックフェラー失踪事件』の著者カール・ホフマンは、第一章で、その様子をまるで小説のようにマイケル視点の物語として描き出す。

圧巻は続く第二章だ。視点人物は、こちらに向かって泳いでくるマイケルを発見した50人のアスマットの男たち。彼らは助けるどころか、槍で突いて瀕死の状態に追い込み、〈祖先たちから教わった人間の解体のやり方の通りに〉処理し、焼き、食べてしまう。

オランダの植民地になって以降、白人を殺したことは一度もなかったアスマットが、なぜ、マイケルを殺し、食べたのか。報告書として残っている人肉食の事実が、なぜ、50年の長きにわたって無視され続けてきたのか。

2012年、現地を歩き、関係者の話を聞き、報告書を読み、ホフマンは謎の核心へとグイグイ迫っていく。インドネシア語を習得し、アスマットの人々と生活を共にし、その魂を理解しようと努める。そうした過程を追う体験は、優れたミステリーを読むそれに似てスリリング。普段、ノンフィクションを読まない層にもおすすめしたくなる素晴らしい一冊だ。