希望の灯り

監督・脚本/トーマス・ステューバー
脚本・原作・出演/クレメンス・マイヤー
原作/クレメンス・マイヤー(「通路にて」)
出演/フランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー、ペーター・クルトほか
上映時間/2時間5分 ドイツ映画
■4月5日よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開
©2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

旧東ドイツの現在を描く静かな傑作

暮れ時か夜明けか、灰色の空と何もない平地が広がり、遠くで車が行き交っている。冒頭に登場するこの空っぽな風景の美しさに、まず引き込まれる。次に、「美しく青きドナウ」が流れるなか、照明を落としたスーパーマーケットの店内でフォークリフトがワルツを踊るように通路を行き交う。その優美さと、フォークリフトとワルツという組み合わせのユーモアに、心が躍る。

ひどく無口な青年クリスティアンが主人公だ。周囲の人たちも饒舌ではなく、話もゆっくり進む。いくつかの印象的な出来事が起こるものの、背景の説明はされない。

舞台は旧東ドイツのライプツィヒ近郊。腕や背中にタトゥーを入れた青年クリスティアンは、巨大スーパーの在庫管理係として働き始める。フォークリフトの操作方法などを教えてくれる中年男性ブルーノは、無口で愛想のないクリスティアンをそのまま受け入れる。そして、隣の菓子部門で働く年上の女性マリオンを見た瞬間、クリスティアンは好意を抱く。

クリスティアンを演じるのは、ミヒャエル・ハネケ監督作品『ハッピーエンド』(2017年)に出演し、クリスティアン・ペッツォルト監督の『未来を乗り換えた男』(18年)で主演を務めたフランツ・ロゴフスキ。ホアキン・フェニックスに似た翳りのある顔立ちが印象的で、本作でドイツ映画賞主演男優賞を受賞。マリオン役のザンドラ・ヒュラーは、『ありがとう、トニ・エルドマン』(16年)で数多くの主演女優賞に輝いた、ドイツを代表する女優とのひとりだ。

どうやら荒れた少年時代を送ったらしいクリスティアンだが、真面目に仕事に取り組む。そんな彼に周囲の人たちは温かく接し、彼がフォークリフトの試験を受けるときにはみんなが固唾を呑んで見守る。不器用ながら着実に新たな人生を歩み始めたように見えるクリスティアンの、マリオンへの気持ちの表し方も素敵だ。

ときおり挿入されるクリスティアンのナレーションは、詩のように鋭く自分の内面を見つめている。教育係のブルーノは、トラックの運転手だった東独時代を懐かしみ、その深い孤独が悲しく胸に響く。

アキ・カウリスマキ監督の『街のあかり』(06年)と『希望のかなた』(17年)を合わせたような邦題だが、社会の片隅にいる人たちを温かく見守るなど、たしかにカウリスマキ作品と共通する空気がある。

登場人物たちは感情表現が控えめで、お互いの領域に踏み込みすぎないように気をつかう。同僚たちが醸し出す静かなぬくもりが心地よく、クリスティアンと同様に、観客もまた励まされているような気持ちになるだろう。焦らず、ゆっくりと、自分らしく歩めばいい、と。

 

芳華−Youth−

監督・製作:フォン・シャオガン
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1970年代後半の中国。軍の歌劇団である「文芸工作団」の若者たちを描く。練習に励む一方、恋やいじめなど、どこにでもある青春の日々に、文革の終焉や中越戦争が入り込む。団の解散によって突然断ち切られた青春期の甘酸っぱさとほろ苦さが心に響く。4月12日より新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開

 

荒野にて

監督・脚本:アンドリュー・ヘイ
©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017

15歳の少年チャーリー。一緒に暮らす父は友だちのような存在だが、頼りない。ある日、家計を助けるため競走馬の世話を始める。大切な人たちを次々に失った彼は、最愛の存在を守るために荒野へと向かうが......。チャーリー役のチャーリー・プラマーが素晴らしい。4月12日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開