『切に生きなさい』先生の言葉を胸に
寂聴さんは、南さんに何度も何度も文章を書くことを提案していたが、実は南さんの書いた文章は一度も読んだことがなかったそう。しかし、あなたは絶対に書く人間になると言われ、「渦巻く気持ち、消化できない気持ちを抱えていることを先生に打ち明けていたため、『そういうことを書くのよ、感じられないことを感じて、人の出来ない経験をしているんだから』と励ましてもらいました」と微笑む南さん。
その後、書き下ろしエッセイ『乙女オバさん』の執筆が決まった。寂聴さんに話したら『帯は私が書く』と言ってもらえたが、叶えることはできなかった。「先生に読んでもらえず、約束を果たせなかったことが本当に残念」と明かした。
「先生とお話ししたくて寂庵に伺っていたのですが、過ごした時間が、これほど貴重になるとは思っていませんでした。先生は絶対に死なないと、どこかで思っていました。でも人間は天命を全うすることを、最後に教えていただいた。先生は『切に生きなさい』といつも声をかけてくだりました。過去でも未来でもなく、今が大事だということを肝に銘じて、進んでいきたいです」と力を込めた。
展覧会には寂聴さんが遺した著作が壁一面に並べられ、その作品は400作以上。中でも南さんの好きな作品は、岡本太郎の母親・岡本かの子を描いた『かの子撩乱』。寂聴さんにより戯曲化されており、「かの子役をやってみたいと思い、先生から戯曲もいただいているので、今後やる機会があれば嬉しい」と、寂聴さんも確認済みであることを明かした。さらに、「『瀬戸内寂聴物語』が撮影されるのであれば、『あなた寂聴やりなさい』と本人から申しつかっております。もしやるとしたら、剃髪します」と意気込んだ。
2021年11月9日に、99歳で亡くなられた瀬戸内寂聴さん。作家、僧侶として幅広く活動し、最後までペンを握った生涯だった。今回の展覧会では、新たに出版された寂聴さんの著作を始め、これまでの代表作や活動の記録、交遊録を一堂に展示。さらに、法話映像や秘蔵の資料も見られる貴重な機会となっている。