ロケットマン
脚本/リー・ホール
製作総指揮/エルトン・ジョン
出演/タロン・エガートン、ジェイミー・ベル、リチャード・マッデン、ブライス・ダラス・ハワードほか
上映時間/2時間1分
イギリス・アメリカ合作
■8月23日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開
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◆エルトン・ジョンの壮絶な半生がミュージカルに
数々のヒット曲、世界で最も売れたシングル「キャンドル・イン・ザ・ウインド~ダイアナ元英皇太子妃に捧ぐ」等で知られ、“サー”の称号も授与されているエルトン・ジョン。奇抜な衣装と派手なパフォーマンスで観衆を巻き込む、サービス精神旺盛なアーティストだ。70歳を過ぎても、スパイ映画『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017年)に昔のド派手な衣装でカメオ出演するなど茶目っ気は健在。彼の知られざる物語が、感動的なミュージカル映画となった。
オレンジ色のキャットスーツ、デビルの帽子、ハート形サングラスのエルトン・ジョン(タロン・エガートン)の登場で、音楽と映像が煌めくマジック・ワールドの幕が上がる。アルコールとドラッグ依存症のためリハビリ施設に入所するエルトンの独白から、話は少年時代へとジャンプする。
両親からの愛情は薄かったが、音楽の才に恵まれた少年時代。1960年代のバンド活動、作詞家バーニー・トーピン(ジェイミー・ベル)との出会いと成功。70年代前半の人気絶頂期、恋人でもある男性マネージャーとの不和。そして、90年に、プレッシャーと孤独感からアルコールと薬物依存のため生死をさまよい、リハビリを決意するまでが、名曲にのせて綴られる。
労働者階級出身の内気な少年が天賦の才を活かし、スーパースターへと飛躍するドラマがファンタジーと現実を交えて語られる。なかでも、エルトンとバーニーの運命的にして稀有なコラボレーションを物語る「ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」誕生の瞬間は感動的で、夢に向かう二人が爽やかだ。
楽曲は創作年順ではなく、自由な発想と緻密な構成で組み込まれ、エルトンの心情を歌詞が巧みに表現する。例えば、少年時代のエルトン、両親、祖母が歌う「アイ・ウォント・ラヴ」は、愛を求めながらもすれ違うもどかしさを表し、愛に飢えた少年期を描き出す。20代前半にして頂点に登りつめたものの求める愛情は得られず、心は満ち足りない。少年の頃の寂しさと絶頂期の孤独が重なる楽曲、「ロケットマン」は涙を誘う。
主演のタロンは「キングスマン」シリーズで大ブレイク。容姿はエルトンに似ていないが、のびやかな歌声と抜群の歌唱力、エネルギッシュなパフォーマンスが圧巻。これまでにも、アニメ『SING/シング』(16年)で「アイム・スティル・スタンディング」を熱唱している。
ミュージカル仕立てにしたことで、伝記物にありがちな噓っぽさがない。エンドロールでは、どん底から這い上がり、ありのままの自分を愛する、「(アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン」をエルトン本人とタロンが歌い上げる。全編、エルトン&バーニーの豊かな楽曲に浸れる至福のエンターテインメント。
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