むらさきのスカートの女
朝日新聞出版 1300円
主人公の異常な執着が
時に不気味で、時に笑える
〈うちの近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいる。いつもむらさき色のスカートを穿いているのでそう呼ばれているのだ〉
第161回芥川賞を受賞した今村夏子の小説の語り手は、特異な行動パターンによって、町の名物となっている女性が気になってしかたなく、友達になりたいがためにストーカー行為にまで及んでいる〈わたし〉。〈むらさきのスカートの女〉がいつも座る公園のベンチに、自分の職場に印をつけた求人情報誌を置くなど画策し、同じホテル清掃の仕事に就かせることに成功するも、人づきあいが苦手なタイプかと思っていた女は、意外にも新しい職場に馴染んでいき、上司と不倫の関係を結ぶという変容を遂げていくのだ。
この小説が明らかにしていくのは〈むらさきのスカートの女〉の、ではなく〈わたし〉の異常性。相手を監視し続ける執着と自分自身に対する徹底した無頓着、その落差の激しさが時に笑いを生み、時に不気味さをかもす。不定期ではあってもちゃんと働いて、家賃を滞りなく払えている〈むらさきのスカートの女〉とちがって、ワケありの過去を持つ〈わたし〉は家賃を滞納し、もしもの時に備えてすぐ夜逃げできる準備まで整えている。社会人、生活人としておかしいのは語り手のほうなのだ。しかし――。なぜ、〈わたし〉は〈むらさきのスカートの女〉にこんなにも囚われ、自分の内面をこんなにも隠蔽するのか。作者はその答えを用意してはいない。
そうした潔いくらいの説明のはぶきっぷりや、時折かもされるユーモア、作中で起きることの昏さと反比例して生まれる奇妙な明朗さが、いかにも今村夏子だなと思わされる受賞作。過去作も併せて是非!