専門家が独自の目線で選ぶ「時代を表すキーワード」。今回は、政治アナリストの伊藤惇夫さんが、「改憲勢力」を解説します。

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◆公明党は果たして改憲政党なのか

2019年7月に行われた参議院議員選挙は、48.8%という低投票率が象徴するように、最後まで盛り上がらないまま終わった。結果は自民・公明の連立与党が改選議席の過半数を獲得したわけだが、「自民党勝利」というよりも、「自民党が負けなかった選挙」といったほうが的確な表現かもしれない。

さて、その選挙戦の中で、マスコミ報道にたびたび現れたのが、「改憲勢力」という言葉だった。ほぼすべてのマスコミが、この参院選を「改憲勢力が国会での発議に必要な3 分の2(164議席)を確保できるかどうかが最大の焦点」といった調子で報じていたのではなかったか。

では、この「改憲勢力」とはなにを指すのかというと、連立を組む自民党と公明党、それに改憲に積極的な日本維新の会のことである。だが、マスコミが当然のように使うこの言葉は、果たして事実を正確に表しているのか、どうも怪しい。

というのも、この3党の中では、公明党は自らを「改憲政党」と言ったことは一度もないからだ。公明党の憲法問題に対するスタンスは「加憲」である。現行憲法の国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義の基本三原則を維持しながら、時代に応じて条項を加えてゆくという考えだ。「改憲」と「加憲」では、かなりニュアンスが異なる。

にもかかわらず、マスコミは“勝手”に公明党を改憲勢力に入れている。「慎重姿勢を見せているけれど、結局は自民党の言いなりだろう」と決めつけているのならば、ずいぶんと失礼な話ではないだろうか?