©東京藝術大学大学院映像研究科

 

父の愛人と過ごす奇妙な数日

父親の浮気というヘビーになりがちな題材を、独特の軽やかさとユーモラスな語り口で描く。後味も爽快だ。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻の修了制作作品で、監督・原案は西川達郎、脚本は川原杏奈。

高校2年生の森田萩(ハギ)は、夏休み明け、親友の斉藤と自分、部員2人だけの釣り部が廃部になったのをきっかけに、何となく不登校に。家で暇を持て余していたある日、父親から告白される。「父さんにはもうひとつ家がある。そこには瞳子(とうこ)という女性が住んでいる」と。そして、「ハギ、彼女と別れるのを手伝ってくれ」と、頼まれてしまう。

ハギの家は、会社員の父親と、専業主婦の母親、化粧に余念のない姉の4人家族。いつも明るい母親の口癖は「よく話し、理解しましょう!」で、毎夜、風呂上がりの父親にノンアルビールとつまみを用意して、1日の出来事を語らせるのだった。

もともとハギは反抗期とは無縁で、父親の言うことはよく聞くし、不登校を心配する母親から交換日記をしようとノートを渡されても、うるさがったりしない。父親の愛人宅訪問という、普通なら受け入れがたい役割も素直に引き受ける。ハギは海を見渡せる高台の一軒家に行き、瞳子に「父さんと別れてください」と単刀直入に切り出すも、拒絶される。家に帰ると父親から「ちゃんと自分の仕事をしろ!」と理不尽に叱られ、ふたたび瞳子宅へ。次第にハギは、率直でさっぱりした性格の瞳子と仲良くなっていくのだが……。

ひょうひょうとした少年ハギを魅力的に演じるのは、『ソロモンの偽証』(2015年)で俳優デビューし、今夏に主演作『5億円のじんせい』が公開されたばかりの望月歩。細長い手足を持て余しているような様子が、大人への階段を上り始めた少年のとまどう姿に重なる。瞳子役の大谷麻衣は、妖艶さと無気さをあわせ持つ女性を好演。ハギの親友・斉藤役の小日向星一もコメディ・センスが光るし、釣り名人を演じるでんでんのうさん臭い存在感も楽しい。

 

森田家の食卓も印象的だ。朝食はパンケーキにミニトマトだけという簡素なもので、ソファに低いテーブルでの食事は食べにくそう。そのぎこちなさが一家の内部崩壊を暗示しているようにも思える。一方、瞳子は縁側で野菜を干したり、丁寧な暮らしが垣間見える。そうしたつくりこまれたディテールも本作の魅力だ。

ハンサムな父親は、わりと影が薄い。直接顔を合わせることになったときの母親と瞳子は、各々痺れるほどかっこいい。ハギは、そうした大人たちのあれこれを目撃することで、夏の終わりに、少し成長する。この世界を肯定する優しさが全編を貫いていて、心地いい。

 

***

向こうの家

監督・原案/西川達郎 脚本/川原杏奈
出演/望月歩、大谷麻衣、生津徹、でんでん、南久松真奈、円井わん、
植田まひる、小日向星一、竹本みき
上映時間/1時間22分 日本映画
■10月5日より渋谷シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開

***

 

©2018 HOTEL MUMBAIPTY LTD,SCREEN AUSTRALIA,SOUTHAUSTRALIAN FILM CORPORATION,ADELAIDE FILM FESTIVAL ANDSCREENWEST INC

 

2008年にインドの大都市で起きたイスラム武装勢力による同時多発テロ。最高級のタージマハル・ホテルも占拠されたが、500人以上の人質の多くが奇跡的に生還した。この実話が、手に汗握る臨場感たっぷりの映画に。テロリストたちの洗脳された思考回路も写実的だ。9月27日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国順次公開

***

ホテル・ムンバイ

出演:デヴ・パテル、アーミー・ハマー、ナザニン・ボニアディ

***

 

©ENBUゼミナール

 

自ら主演した『枝葉のこと』(2017年)で劇場公開デビューした二ノ宮監督の最新作は、女性が主人公。甘味処でアルバイトするみのり(萩原みのり)は、いろいろなことに腹を立て、誰に対しても正面からぶつかっていく。その姿と、周囲の若者たちのリアルな台詞や関係性が、実に秀逸だ。9月28日より新宿K's cinemaほかにて全国順次公開

***

お嬢ちゃん

監督・脚本:二ノ宮隆太郎