負のイメージの多い業界にも明るい未来はある!
この本の手柄は、「福祉」に「かっこいい」という意外な言葉を組み合わせたところだ。福祉は社会の命綱なのに、よい言葉で語られることが少なく、重労働など負のイメージが先行する。そんな状況を変えていくには、「福祉」が「かっこいい」ものにならなければ。
ふたりの著者の取り合わせもいい。村木厚子はもと厚生労働事務次官。郵便不正事件で逮捕・起訴されたが無罪が確定(証拠を改ざんして村木に罪を着せた検察官らが逮捕された)。公務員として福祉の現状をひろく見てきた。今中博之は、アトリエインカーブ代表。知的障害をもつアーティストたちの作品を国内外に紹介する、アートと福祉両面の専門家だ。
二人それぞれの生い立ちや仕事歴をたっぷり語り合う対談は話題が豊富で、興味をひかれるままどこまでも読める。人と接することが苦手だけれど「自分で食べていく」ことが目標だった村木は、異動がつきものの職場で、あちこちに流されながら多様な能力を身につけた。今中は、一般の職場なら能力不足と評されがちな知的障害者たちが、でも絵筆を手にすれば驚くような創造性と集中力を発揮するのを見て、彼らの力に「参った」と思う感覚を大切にする。
慢性の人手不足と言われる福祉施設でも、独特の運営方針をおもしろがる若者が集まり採用に困らないところもあるし、職員の私生活(子育てや介護)を尊重し支援すれば離職は減るという。社会の中で自分たちが果たすべき役割と魅力的な戦略を自分の言葉で語れる経営者が増えれば、若い人はやってくる。福祉が「かっこいい」業界に変身する可能性は、そこに確実にあるのだと、この明るい対談を読んで思った。
『かっこいい福祉』
著◎村木厚子、今中博之
左右社 1700円
著◎村木厚子、今中博之
左右社 1700円