『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』著◎高橋ユキ

 

この陰惨な事件はどこでも起こりうる

山口県の山間部にある、住民わずか12人の寂れた集落で、2013年に起きた5人殺害放火事件。事件後、容疑者の家に残された「つけびして煙り喜ぶ田舎者」という貼り紙が犯行予告と受け止められ、その猟奇性でも話題になった。

本書は裁判傍聴記などの著作があるライターが、事件の発生から4年後にあらためて現地と容疑者を取材したノンフィクション作品だ。ネットで最初に火がついたことなど、書籍刊行までのプロセスが赤裸々に書き込まれており、一風変わったつくりになっている。

陰惨な事件の舞台は市町村合併で周南市の一部となった金峰(みたけ)地区の郷(ごう)集落。容疑者として逮捕された保見光成(最高裁で死刑が確定)はこの集落で生まれ、高度成長からバブル経済の時代にかけて首都圏で過ごした後、老親を世話するため戻ってきた。よくある団塊世代のUターン帰郷はなぜ、これほどの事件を引き起こしたのか。

事件の生存者や周辺集落の証言から、著者は当時の報道が見落とした大きな要素を見出していく。事件が起きた集落では、まるで羽虫のように「うわさ」が日常的に人々のあいだで飛び交っていた。事件後に容疑者自身はICレコーダーに〈うわさ話ばっかし〉〈悪口しかない〉と吹き込んだが、この告発は本当だったのかもしれない――。しかも「うわさ」のネットワークの中心にいた人物は、意外にも事件による被害を免れていた。

本書の白眉は、この集落の特殊性に思えた絶望的状況が日本の多くの村落社会を見舞った普遍的な過程であることを物語る「古老の巻」だろう。終章の一つ前の「春祭り」も効果的で、陰惨な事件にもかかわらず静かな印象が残った。

 

『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』
著◎高橋ユキ
晶文社 1600円