『新春浅草歌舞伎』

次代の担い手たちが大役に挑む

新春の浅草で楽しむ「初芝居」として、毎年上演されている「新春浅草歌舞伎」。次代の歌舞伎界を支える人気の若手が顔を揃え、代々名優によって演じられてきた演目や、大きな役どころに挑む公演だ。いまではすっかり舞台の中枢を担う市川海老蔵や中村勘九郎・七之助、市川猿之助、中村獅童、片岡愛之助らも、この場で切磋琢磨していたのは記憶に新しいところ。数年前より顔ぶれが「代替わり」して以降は、現在34歳の尾上松也や、30代を迎えたばかりの坂東巳之助(みのすけ)らを中心に、各々がメキメキと実力を伸ばし、そのたびに「華」も一回りずつ大きくなってきた。

2020年は昼公演3本、夜公演2本を上演。なかでも歌舞伎といえばこれ、というほどの大きな演目『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』と『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』に注目だ。昼の『菅原~』では、藤原時平(しへい)の舎人である松王丸が菅原道真への恩に報いるため、ある行動を起こすさまが描かれる。松也が「あこがれていた」という松王丸を勤めるほか、その美形ぶりが内外から注目を集める中村隼人、女性と見まごう可憐な女形で人気の中村米吉、たおやかな風情で印象を残す女形・坂東新悟という顔合わせ。しみじみと涙を誘う結末まで、彼らがどう演じきるのか見ものだ。

そして夜公演の『仮名手本忠臣蔵』は、七段目「祇園一力茶屋の場」を。大星由良之助を松也、お軽を米吉が演じるほか、襲名披露と外部出演を経て着実に成長を見せる中村橋之助が大星力弥役。また昨年、新作歌舞伎『NARUTO』で主役を演じ、芯に立つ存在感を放ちつつある巳之助がお軽の兄・寺岡平右衛門に挑む。

『菅原~』『仮名~』ともに18世紀半ばの初演以来、今日まで愛され親しまれてきた演目。ゆえに、役者自身に「ニン」(その役自体がもつ雰囲気や柄)と「器」がなければ舞台が成立しない。そんな役どころに松也らがどう取り組み、演じているのかを観るのが「新春浅草歌舞伎」の醍醐味といえよう。

一方で、年齢を重ねなければ得られない「器」には足りないけれども、「ニン」は抜群に合う役者と役を発見することもしばしば。それなら今後も彼を観続けよう、そんな観客の想いが、このお正月の風物詩を支えてきたに違いない。

新春浅草歌舞伎

2020年1月2~26日/東京・浅草公会堂
出演/尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、
中村米吉、中村隼人、中村橋之助、中村錦之助ほか
☎0570・000・489(チケットホン松竹)

 

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『阿呆浪士』

「自分は赤穂浪士だ」と言ってしまった魚屋は…

元禄時代。長屋に住む魚屋の八(はち)は、偶然、赤穂浪士の血判状を手に入れる。長屋小町であるお直の気を引くために、つい「自分は赤穂浪士だ」と言ってしまう八。その頃、大石内蔵助の娘・すずは、のらりくらりと過ごす父に業を煮やして、討ち入りのために八を利用することを思いつき……。

市井の人々が必死に生きる姿を、笑いと涙と大きな共感をもって描く喜劇の名手・鈴木聡。彼の代表作ながら、1998年の再演以来、幻の名作と化していた本作がついに上演決定。『忠臣蔵』の四十七士のような武士道はないけれど、庶民には庶民の生き方がある。そんな八をA.B.C-Zの戸塚祥太が体現するほか、盤石の役者陣でエンターテインメント時代劇を送る。

阿呆浪士

2020年1月8~24日/東京・新国立劇場 中劇場
脚本/鈴木聡 演出/ラサール石井
出演/戸塚祥太(A.B.C-Z)、福田悠太(ふぉ~ゆ~)、
南沢奈央、伊藤純奈(乃木坂46)、小倉久寛ほか
☎03・3477・5858(パルコステージ)
※大阪公演あり

 

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パリ・オペラ座バレエ団『オネーギン』撮影◎Julien Benhamou / OnP

きら星のごとく並ぶダンサーたち

フランス国王ルイ14世によって創設されてから、2020年で359年を数える「パリ・オペラ座バレエ団」。ロシアの「マリインスキー・バレエ」、イギリスの「ロイヤル・バレエ団」とともに、世界3大バレエ団と称される最高峰が、3年ぶりの来日だ。気になる演目は2本。

『ジゼル』は19世紀に同バレエ団によって初演され、幻想的な物語とダンサーの繊細かつ高度なテクニックが人気のロマンチックバレエ。一方の『オネーギン』は、天才振付家ジョン・クランコが男女の恋をドラマチックに描いた20世紀バレエの白眉だ。厳格な伝統の上に成り立つ究極のエレガンスが、同バレエ団の魅力。きら星のごとく並ぶダンサーたちの姿を、ぜひその目に焼きつけてほしい。

パリ・オペラ座バレエ団
『ジゼル』『オネーギン』


2020年2月27日~3月1日『ジゼル』、3月5~8日『オネーギン』/東京・東京文化会館
音楽/アドルフ・アダン(A)、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(B)
振付/ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー(以上A)、ジョン・クランコ(B)
演出/パトリス・バール、ユージン・ポリャコフ(A)
芸術監督/オレリー・デュポン 出演/パリ・オペラ座バレエ団
☎03・3791・8888(NBSチケットセンター) ※A=ジゼル、B=オネーギン