前田公輝さん
 (撮影:藤咲千明)
韓国のウェブコミック・WEBTOON(ウェブトゥーン)発の大ヒット漫画『ミセン』。2014年度には韓国のドラマ賞を総なめにし、「ミセンシンドローム」と呼ばれる社会現象を起こした大ヒット作だ。日本では2016年よりピッコマにて連載され、同年、フジテレビでもリメイクドラマが放送された。この国境を越えたヒット作が、日韓のトップクリエイター陣によってミュージカル化、大阪で初演の幕が開いた。脚本のパク・へリムによって豊かな人間ドラマが描かれ、チェ・ジョンユンによる耳に残る音楽がそれを彩る。オ・ルピナによる演出と、KAORIaliveによるダンスが融合し、大人の心にリアルに刺さる作品として完成した。
東京公演が2月6日に開始、主演の前田公輝さんに話を聞いた

座長のプレッシャーよりも好奇心が勝っていた

――ミュージカル初主演ということで、座長としてのプレッシャーはありましたか?

座長として現場をどう作るか、最初考えたのですが、キャストの皆さんのキャラクターと役がかなり合致しているということもあって、自然に入る事ができました。プレッシャーよりもチャン・グレとしてこのチームにいられる好奇心のほうが勝っていたし、演出のオ・ルピナさんと作品へのアプローチの仕方が共感できていたので、不安はありませんでした。この作品のテーマも「共感」なんですよね。

――韓国の大ヒット漫画が原作となり、2014年にはドラマ化もされて社会現象ともなった作品ですが、ミュージカルにしたことで出た魅力、見どころというのはどんなところでしょうか?

『ミセン』は、何かが振り切っているようなストーリーではなく、日常を描いている作品です。もともと、ドラマなら20時間もある作品を、舞台であれば長くて3時間にしなければいけない。ミュージカルのエンタメ性、音楽の力を借りることで、より強くお客様にメッセージが伝わるのではないかと思います。

――すでにご覧になったファンの方から、「明日への活力になる言葉がたくさんある」というコメントもありましたが、前田さんご自身の好きなセリフや場面はありますか?

オ・サンシク(橋本じゅんさん)の舞台写真
 

クライマックスの部分なのですが、チャン・グレの名前に関する場面ですね。「グレ」っていうのは、韓国語の一般用語「イエス」の意味もあり、名前のせいでいじられることもあったりして、主人公にとってはコンプレックスだったんです。でもそれが、橋本じゅんさん演じる上司のオ・サンシク課長が言ってくれる言葉で、ガラッと変わるという…。ドラマファンの方にもぐっと来る場面になっていると思います。あとは、母親の安蘭けいさんとの場面でしょうか。

――今回、安蘭けいさんは、チャン・グレの母親役と、上司のソン・ジヨン次長の2役ですが、混乱したり面白い部分はありますか?

チャン・グレ(前田公輝さん)とグレの母(安蘭けいさん)の舞台写真
 

もう、別人すぎて、何も面白くないくらいでした(笑)。ほんとに、別の俳優さんじゃなくいかと思うくらいです。お母さんが出てきた、次長が出てきた、としか思わないです。先日、僕のラジオにゲストで来てくださったんですが、僕のことを、誰か別の俳優に似てる、っておっしゃるんですよ。で、「それはないですよ!」と結構偉そうに言ってしまったんです。初対面で、事務所(ホリプロ)の大先輩でもあるのに。でも、ものの40分くらいで一気に距離が縮まったというか。安蘭さんがそんな空気を作ってくれたというか。そういった計算していない奇跡が重なって、素晴らしい現場になっていると思います。僕と安蘭さんのシーンなんて、キャストが毎回泣いちゃってますから。毎日同じ芝居をしてるのに。次のシーンは目が真っ赤じゃいけないのに、みんな泣いてて。