『シアターコクーン・オンレパートリー2020 母を逃がす』

閉鎖的共同体で右往左往

シアターコクーンが、芸術監督・松尾スズキのもと新しいスタートを切った。昨年12月には代表作『キレイ』の4度目の再演を決行。劇場は松尾カラーに染まった。そして今回、1999年、2010年に大人計画で上演した問題作『母を逃がす』が、ノゾエ征爾の新演出でよみがえる。閉鎖的共同体に生きる人々の日常を、痛烈な笑いで描いた作品だ。

ノゾエは劇団はえぎわを主宰し、劇団外でも活躍する今注目の演劇人。蜷川幸雄の遺志を継いだ『1万人のゴールドシアター2016』で千人規模の舞台を成功させるなど、多人数の作品づくりでも手腕を見せる。

松尾は「劇場の空間を埋めるスペクタクル演出のできる数少ない若手演出家」と信頼を寄せ、ノゾエは「このとんでもなくモンスターな本」に「無邪気に取っ組みあってくれそうな方々を呼ばせていただきました。揃いました、素晴らしき珍獣たち」と抱負を述べる。

その「珍獣たち」。まず主演は『ドクター・ホフマンのサナトリウム』での好演が記憶に新しい瀬戸康史で、気弱な青年役がぴったり。そして妹役には、映画『ダンスウィズミー』で注目の三吉彩花が抜擢された。さらに稲葉友、山下リオ、マキタスポーツ、峯村リエ、高田聖子、六角精児といった個性派、実力派が存在感を示すはずだ。

物語の舞台は、“自給自足自立自発の楽園”がスローガンの農業集落「クマギリ第三農楽天」。頭目代行の雄介(瀬戸)は、自身のリーダーシップ不足に悩みつつ、存在感を示そうと仮想敵国との対立を演じたり、死刑の復活を目論んだりしている。心のよりどころは婚約者・蝶子(山下)だ。

しかし雄介に対する住民の信頼はいまひとつで、妹のリク(三吉)も兄に反抗的。ある夜、集落は謎の男の襲撃を受け、雄介は自警団の設立を提案するものの受け入れられない。ことあるごとに自信をなくす雄介を、母ハル子(高田)がときに叱り、ときに励ますが……。

集団を守るために仮想敵を設定する。どこかで聞いたような話だが、それをすんなりと進ませないのが松尾流。一筋縄ではいかないうねりが、物語をダイナミックに切なく運ぶ。

松尾いわく「ノゾエ作品にはハナと、笑いと、切なさがある」。そんなノゾエ演出の松尾作品、ひと味違う面白さが期待できそうだ。

シアターコクーン・オンレパートリー2020
母を逃がす


5月7〜25日/東京・Bunkamuraシアターコクーン
作/松尾スズキ 演出/ノゾエ征爾
出演/瀬戸康史、三吉彩花、稲葉友、山下リオ、もう中学生、町田水城、山口航太、湯川ひな、武居卓、ノゾエ征爾、家納ジュンコ、マキタスポーツ、峯村リエ、高田聖子、六角精児
TEL 03・3477・9999(Bunkamuraチケットセンター) ※大阪公演あり

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『十二夜』

「こんなに笑えるシェイクスピアは初めて」

「こんなに笑えるシェイクスピアは初めて」と評判を呼んだ、青木豪演出の『十二夜』が再演される。オール・メール(男性出演者のみ)シリーズの一環で、初演では神社を舞台上につくり、そこでの上演という仕掛けがお祭り気分を盛り上げた。

双子の兄と生き別れた妹ヴァイオラは、男装して公爵オーシーノに仕えることに。ところが公爵の使いで訪れた伯爵家で、女主人オリヴィアに一目惚れされてしまう。そして周囲の人々も巻き込み、片思い、勘違いの騒動が続く。

演劇からお笑いまで揃った芸達者がくり広げる、ハートウォーミングな喜劇だ。ヴァイオラ・前山剛久、オリヴィア・納谷健の美女ぶりにも注目したい。

十二夜

3月6〜22日/東京・本多劇場
作/ウィリアム・シェイクスピア 翻訳/松岡和子 上演台本・演出/青木豪
出演/前山剛久、新納慎也、納谷健、三好大貴、坪倉由幸、清水宏、木場允視、根本大介、宮澤和之、阿南健治、春海四方、小林勝也
楽隊/助川太郎、佐藤芳明
TEL 03・5410・1885(ワタナベエンターテインメント) ※大阪公演あり

※本公演は、新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡散防止のため、3月9日までの公演が中止になっています。今後の公演情報は、公式サイトでご確認ください

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『文学座アトリエ70周年記念公演 熱海殺人事件』

つかこうへい人気作の原点

熱海で起きた殺人事件を取り調べ中の部長刑事・木村伝兵衛。凡庸を嫌う彼は、新任刑事・熊田留吉、婦人警官・ハナ子とともに、容疑者・大山金太郎の貧弱な事件を華麗に改ざんしていく……。

つかこうへいの人気作が、文学座で上演される。実はこの作品、もとは文学座に書き下ろされたもので、初演は1973年。約半世紀が経ち、このたび初演と同じアトリエでの上演が実現した。

これまで多くのバージョンが生まれたが、今回はつかが遺した最初のテキストを使用。新鋭・稲葉賀恵が演出し、石橋徹郎、上川路啓志らが出演する。「本当のところ」が言えない、見えにくい現代に、つかの露悪ともいえる言葉の礫つぶてがどう飛ぶのだろうか。

文学座アトリエ70周年記念公演
熱海殺人事件


4月28日〜5月10日/東京・文学座アトリエ
作/つかこうへい 演出/稲葉賀恵
出演/石橋徹郎、上川路啓志、奥田一平、山本郁子
TEL 0120・481034(文学座チケット専用)