概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める飯塚恵子編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

米国で合成麻薬「フェンタニル」の蔓延が社会問題になっている。トランプ大統領は、中国がフェンタニルの原料を輸出しているとして、中国に追加関税を発動した。フェンタニル対策と関税政策を連動させるトランプ氏の思惑とは。中林美恵子・早大教授と小原凡司・笹川平和財団上席フェローを迎えた7月1日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

フェンタニル対立する米中

米国をむしばむ薬物中毒

「米国では、中毒性のある鎮痛剤の処方が以前から問題になっていた。フェンタニルは安く大量に作ることができるため、収入の少ない人も手を染める事態が起きている」=中林氏

「中国は、薬剤の形で輸出していないとしている。フェンタニルの蔓延は本来、米国の製薬会社の責任であり、米国国内の取り締まり能力の問題であると主張している」=小原氏

飯塚トランプ氏の関税政策が世界を揺さぶっています。日本など合意に達した国もある一方、中国のように合意に達していない国もあります。トランプ氏は3月、中国がフェンタニルの原料を隣国のメキシコやカナダに輸出しているとして、計20%の追加関税を課しました。中国は反発し、米中対立の火種の一つになっています。米中は5月から関税や貿易をめぐる閣僚級協議を続けており、フェンタニル関税の取り扱いも焦点です。米国は、メキシコとカナダにも、フェンタニル対策を理由とする関税を課しています。

吉田フェンタニルは本来、がん患者の痛みを和らげるために用いる医療用鎮痛剤オピオイドの一種です。効果はモルヒネの最大100倍で、致死量はわずか2ミリグラムです。依存性があり、不法に入手した若者らが亡くなるケースなどが後を絶ちません。フェンタニルは安く大量に作ることができるため、社会の中で広まりやすい。米国麻薬取締局によると、違法薬物で命を落とす人は全米で1日あたり300人に上ります。そのほとんどがフェンタニルの過剰摂取とされており、18歳から45歳までの死因の1位になっています。2016年に亡くなった人気歌手プリンスさんの死因もフェンタニルだったと言われます。米国では看過できない社会問題になっています。

合成麻薬「フェンタニル」©️日本テレビ
合成麻薬「フェンタニル」©️日本テレビ

飯塚私たちの番組では、日本テレビの取材班が撮影したペンシルベニア州フィラデルフィアの様子を紹介しましたが、ショックを受けました。街の至るところに、薬物中毒と見られる人たちが座り込んだり、背中を丸めて立ちすくんだりしていました。意識があるのか、ないのかも分からない異様な光景で、病める米国社会の現状は視聴者にもよく伝わったと思います。

フェンタニル対策は、第1次トランプ政権やバイデン政権でも、中国との間で問題になっていました。米国の調査研究機関が中国からもフェンタニルやその原料が流れてきていると指摘しており、トランプ氏は当時行われた米中首脳会談でも対策を求めました。中国も取り締まりに合意しましたが、トランプ氏は、中国はいまだにフェンタニルの原料を生産しており、メキシコなどで合成された上で、米国にひそかに入ってきていると見ています。

過去のフェンタニル対策©️日本テレビ
過去のフェンタニル対策©️日本テレビ