
佐藤愛子のエッセイなどを読んでいる方にとっては意外かもしれないが…
101歳を迎えた作家の佐藤愛子さん。100万部突破の『九十歳。何がめでたい』(2016年、小学館 )をはじめ、ユーモアエッセイで長く人気を博しています。百寿者とは思えぬ仕事ぶりの一方で、家族からみた佐藤愛子さんの姿とは。孫の杉山桃子さんがコミックとエッセイで描く『婦人公論』の連載「うちのばあさん101歳」。第8回目は「ばーさん、夏の危機〈前篇〉」。
ばーさん、夏の危機
「この数値ではいつ何があってもおかしくありません……」
祖母が施設に行く前から、何度かこういうふうに言われたことがあった。最初は訪問診療の先生が行った血液検査の時である。先生は一通り説明し終わったあと、「ご家族の方、少しいいですか」と、私を玄関の外に連れ出した。いくら耳の遠い祖母とはいえ、本人の前で話すには深刻な状態だったのである。
元気そうには見えるが、100年間大した病気もなく過ごしてきた祖母の肉体にもさすがにガタがきたのか……と、その時は覚悟を決めたのだが、いつまで経っても決めた覚悟が役に立つ日は来ない。
覚悟を決めろ決めろ詐欺とでも言おうか、そんなことが2、3度あった。