専門家が独自の目線で選ぶ「時代を表すキーワード」。今回は、政治アナリストの伊藤惇夫さんが、「やってる感」について解説します。
有権者の支持を得るためのひとつのテクニック
2012年12月に第2次安倍政権が始まってしばらくした頃から、時々見聞きするようになった言葉のひとつに、「やってる感」がある。
政治の世界には多少の「演出」が必要だ。実際にやっていることを、少し大げさに「こんなにやってる」と言ってみせることで有権者の共感や支持を得て、目指す目標に到達する速度を速めることができるから。
その点、安倍政権はこの「やってる感」の醸し出し方が、かなり巧みだといえるだろう。経済政策の「アベノミクス」、北朝鮮による拉致問題、北方領土問題……。いずれに対しても「全力で取り組んでいる」姿勢を見せることで、国民の期待感を高め、支持率を維持してきた。
新型コロナウイルスの感染拡大問題でも、安倍総理は事前の審議を経ず、2月27日に突然「全国一斉休校要請」を表明した。これも、ある種の「やってる感」アピールかもしれないが、結果的にそれが国民の危機感を一気に高めたとすれば、一定の効果があったともいえる。
実は安倍総理自身、かつてアベノミクスの成果について政治学者に聞かれ、「(大事なのは)『やってる感』なんだから、成功、不成功は関係ない」と答えている。どうやら、ご本人もわかったうえでしているようだ。
ただ、実際に「やってる」ことがあり、そこに多少の“スパイス”を効かせる程度ならば問題ないが、中身がないのに「感じ」だけではね……。「成功、不成功は関係ない」といわれると、ちょっと首をひねってしまうかも。