コロナ禍の日々にエディ・ヴェダーの声と言葉が響く
今年、結成30年を迎えているアメリカ・シアトル出身の5人組パール・ジャムにとっては、6年半ぶりの11枚目になるスタジオ・アルバムだ。
時にアメリカの民主主義が危機に瀕していると考えれば、自国の大統領にも勇猛果敢に嚙みついて来たグループで、1990年代以降を代表する世界のトップ・ロックバンドだ。
今回、特に心臓を鷲摑みされたようなショックと感動を覚えたのは、世界が新型コロナのパンデミックで苦しんでいる時に、その口に出せない不安や苦しみ、悲しみや怒りに寄り添って共感できるアルバムだからだろう。
ジャケット写真は、カナダの有名な海洋生物学者としても知られる映像作家の作品で、気候変動の影響で溶け出している氷河から激しく流れ落ちる水が、まさにアルバム・タイトルの《ギガトン》(噴火や爆発力の大きさ。メガトンは100万トン、ギガトンは10億トン)の象徴として使われているのだ。地球環境の崩壊だけでなく、トランプが大統領選に立候補していた頃から、アメリカの民主主義の崩壊に対して激しく抵抗してきたパール・ジャムだったから、アルバムを出さずにいた6年半の間に溜め込まれた憤懣や怒りや悲しみも、まさにギガトン級のエネルギーだったようで、それがこのアルバムの中に溢れていると言っていいだろう。
例えばトランプ大統領やブラジルのボルソナーロ大統領は、共にこの期におよんでも地球温暖化を否定したり、経済発展を優先。「地球の肺」と言われるアマゾンのさらなる森林伐採を進めるなどの姿勢を見せているのだが、温暖化の影響の中には、グローバルに広がる伝染病の発生もある。氷河が溶け出して、かつて猛威を振るったウイルスが再び地表に出てくる心配だけでなく、熱帯でしか生息できなかった蚊やダニや鳥類など、ウイルスを媒介する生物の分布地域がグローバルに広がる可能性があるからだ。
そんな思いと不安の中で、このパール・ジャムのアルバムを聴くと、1曲目の〈フー・エヴァー・セッド〉からもう、“眠れない夜に弱っていく自分と心臓の動悸を感じている。それでも俺は諦めない!”と歌うエディ・ヴェダーの声と言葉が胸を打つ。とにかくアルバム最後の一曲まで、魂までがひとつになったようなバンドの緩急自在な演奏といい、今までパール・ジャムにはあまり興味を持たなかった人でも、きっと夢中になって共感できるのではないかと思う。
パール・ジャム
ユニバーサル・インターナショナル 2700円
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「正直、繊細、センチメンタルな若さ」の魅力
そしてもう一枚は、イギリスのマンチェスターから8年前に突然浮上してきた4人組のバンド、THE1975の《仮定形に関する注釈》という4枚目のアルバムだ。バンド名をタイトルにした1枚目が2013年に出て以来、すでにプロモーションを含めて7回も来日しているから、日本にも熱心なファンは多い。
パール・ジャムとはまた違った正直さと日常感。それにホロっと来る繊細さとセンチメンタルな若さ。ヴォーカルのマシュー・ヒーリーをはじめイケメン揃いなのも強味だ。
毎回ユニークなアルバム・タイトルと曲の多さで、アルバム、シングル共に英米でヒットを連発してきたけれど、今回のアルバムからの先行曲〈ピープル〉のパンクな迫力には度肝を抜かれたファンも多いと聞く。
“起きろ!起きろ!月曜日の朝だ。この月曜日の朝だってあと1000回しか来ない。バラク・オバマに言わせてくれ!地球温暖化はそのままで、マリファナだけが合法化ってかよ⁉”と嚙みつく歌詞もあれば、ホロリと甘い〈ミー・アンド・ユー・トゥギャザー・ソング〉もすでに大ヒットしていて、本当なら今年の夏も来てくれるはずだったのに……と、悔しがりながら来年の来日を期待して、それまではこのアルバムで楽しんでほしい。
THE 1975
ユニバーサル・インターナショナル 2500円