『〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史』畑中三応子・著

 

日本食礼賛がどこからきて、どのように形成されたのか

〈もう10年近くなるだろうか、日本食礼賛が巷ちまたにあふれてきたのが気になりだした。(略)「日本の食、すごいよね」と、ざっくり美化して自画自賛されると、へそ曲がりな私は、それは思い込みかもよ──〉。

という冒頭に、深く頷かざるをえなかった。10年近く前といえば東日本大震災後、復興の拠りどころとして日本再発見が見直されていたころだ。外国人が日本をベタ褒めするテレビ番組が多く見られるようになり、東京オリンピック招致に向け「おもてなし」と日本食のすばらしさが語られるようになった。

この「日本の食はすごい」説が、より強化されたのは、和食のユネスコ無形文化遺産登録(2013年)だと著者は述べる。本書は日本食礼賛がどこからきて、どのように形成されたのかについて、日本食の文化史、変遷を通して検証したものだ。

日本の食の特色は〈世界に類を見ない国際性の豊かさ〉である。そのはじまりは明治維新で推進された食の西洋化、そして第二次世界大戦後の栄養改善普及運動で国際化が進んだという。日本人はもともと舶来好きだったのである。1980年代のグルメブームからバブル期のイタ飯・エスニック料理ブームまで、国際化、多文化共生が一気に深まったことは私も覚えている。

平成の米騒動や地産地消ブーム、貿易政策などから礼賛のきっかけを探るほどに、日本食の問題点が浮き彫りになり、エピローグでは〈幻想だった〉という言葉も登場する。もしかしたら東日本大震災で傷ついたジャパン・プライド再生のために必要な礼賛、思い込みだったのかもしれない。一方で日本の食の将来を本気で心配している著者のメイド・イン・ジャパン愛が溢れる良書だ。

『〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史』

著◎畑中三応子
春秋社 2000円