あなたの名前を呼べたなら
出演/ティロタマ・ショーム、ヴィヴェーク・ゴーンバル、
ギータンジャリ・クルカルニー、ラーフル・ヴォーフラー、
ディヴィヤー・セート・シャー、チャンドラチュール・ラーイほか
上映時間/1時間39分 インド・フランス合作
■8月2日よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開
身分が違う二人の恋の行方は
静かで繊細なインド映画だ。主人公のひとりアシュヴィンの結婚式が取りやめになったところから物語が始まる。その原因は花嫁の浮気。ミーラー・ナイール監督のヒット作で、結婚式にいたるまでの花嫁と家族の数日を描いた群像劇『モンスーン・ウェディング』(2001年)をちらっと思い出す。こちらも花嫁の浮気が物語に絡んでいた。どちらの作品でも、住み込みのメイドを演じるのはティロタマ・ショーム。そして両作品とも海外生活を長く経験した女性監督によるものだ。
山奥の実家に帰省していたメイドのラトナは、雇い主のアシュヴィンに呼ばれ、休暇を返上して大都会ムンバイに戻る。彼女はアシュヴィンの新婚家庭で働くために雇われたのだが、どうやら結婚は直前で破談になったらしく、アシュヴィンは独身のままだ。
兄が急死したためにアメリカでの暮らしをあきらめ、父の建設会社の跡継ぎにされたアシュヴィン。アメリカではライターとして楽しく働き、小説を書く夢も抱いていたが、今では建設現場と家との往復で日々が過ぎていく。豪華なマンションに暮らすも、生気はなく、常にイライラしている。
ラトナは、19歳で嫁に出されて4ヵ月後に夫が病死したが、今も「未亡人」として婚家に縛られ、仕送りもしている。そんなラトナにも夢がある。裁縫を習ってファッションデザイナーになることだ。
使用人の一人に過ぎなかったラトナと何度か言葉を交わすうちに、アシュヴィンは、彼女の優しさや強さに惹かれ、彼女もまた、彼を男性として意識しはじめる。だが、二人の身分の違いはあまりにも大きい。
高級ブティックに足を踏み入れたラトナを一瞥するや、店員は警備員を呼んで追いだす。ラトナは、アシュヴィンと連れ立って街を歩くことすら問題外だと断る。外見だけで貧富のみならず身分までわかり、後ろ指をさされるからだ。
1973年生まれのロヘナ・ゲラ監督は、一番大きな影響を受けた映画はウォン・カーウァイ監督の『花様年華』(00年)だと語っている。トニー・レオンとマギー・チャン演じる既婚の男女が、互いへの気持ちを抑制しつつも思いを募らせていく様子を、視線や声のトーンや物腰などで表現した作品だ。本作でも二人の距離が縮まる様子が繊細に描かれる。
原題は『Sir』。ラトナはずっとアシュヴィンを「サー」、すなわち「旦那様」と呼び続ける。ムンバイの街を見渡せる高層マンションの屋上で、彼女が彼の名をついに口にするとき、相手の名前を呼ぶだけでこれほどまでに愛のきらめきを表現できるものかと感嘆し、落涙する。
カーライル
ニューヨークが恋したホテル
マンハッタンのアッパー・イーストサイドにある1930年創業の5つ星ホテル。その洗練された魅力をジョージ・クルーニーやハリソン・フォードら38人のスターが語る。ホテルを支えるベテラン従業員たちが実にチャーミングだ。8月9日よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開
隣の影
アイスランドの郊外住宅地。ある日、初老男性の再婚相手である年若い妻が、隣家の大木のせいで庭に日光が届かないと不満を口にしたことから、閑静なこの地に争いが勃発。どこにでもあるご近所トラブルがエスカレートしていく恐怖、予想を超える結末に啞然とする。7月27日よりユーロスペースほかにて全国順次公開